「院内学級」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 2009年に放映されたドラマ「赤鼻のセンセイ」の影響で、なんとなく知っている人もいるかもしれない。しかし、多くの人にとってはまだまだ、知られていない「院内学級」。今回は、長年病気の子どもの教育に携わってきた元特別支援学校教員で、現在は立教大学兼任講師の赫多久美子先生に、知らないと理解できない院内学級の基本的な仕組みについてレクチャーしてもらった。(TRAPRO編集部)

立教大学兼任講師の赫多久美子先生

■病気の子どもの教育は 院内学級 だけで行われているわけではない

――まず、院内学級の定義を教えてください。

赫多(以下、敬称略): 病院の中にある教育機関を一般的に院内学級と呼んでいますが、形態は様々(※文末「病弱な子どものための教育の現状」参照)なのです。病院の中に設置された小・中学校の特別支援学級であったり、特別支援学校の本校や分校であったりします。ただ、是非知っていただきたいのは、病気の子どもの教育、いわゆる病弱教育は、入院している子どもたちだけでなく、退院しても感染しやすかったり、体力が十分でなかったりして、すぐに地元の学校に通学できず、自宅での療養をしている子も対象だということです。

―― 文部科学省が院内学級の数を把握しきれていないというニュースが流れていましたが、それとも関連があるのでしょうか?

赫多:いわゆる「院内学級」が指す対象が曖昧であるというのが理由のひとつです。例えば、私は以前、東京都の特別学校に所属し訪問学級を担当していました。在宅訪問の他に、大学病院に入院している子どもの訪問教育も担当していました。病院内では、常設の教室の設置はないけれども、「院内学級の先生」という呼ばれ方をするのです。病院によっては隣接した特別支援学校があって、その本校に対して病院内にある教室を院内学級と呼んだりします。先ほども言ったように形態がばらばらで把握しきれないのだと思います。

■文科省も把握しきれない院内学級では、誰がどのように設置するのか?

―― 多様な形があるのですね。では、いわゆる院内学級を設置する機関はどこになるのですか?

赫多:各都道府県や市町村等地方公共団体の教育委員会が設置します。病院に教育対象年齢の子どもが常に一定数入院していればいいのですが、たまにしか子どもが入院しない病院では設置が難しいのが現状です。また、病院のキャパシティが問題になるケースがあります。例えば、敷地が限られた病院では、収入につながる貴重な病室のスペースをつぶして教室にすることは経営上困難です。都心の某大学病院では、対象となる子どもの数は常に多くいても、病院内に教員が常駐できるような教室を確保できないまま何年も経っています。そこでは、教師が訪問する時だけ面談室や会議室を借りて、授業をするような形式で対応しています。子どもたちが集まれる教室があり、決まった教員が常駐できれば、授業時間数も増え、さらに質の高い教育が保障できるので、残念です。

■入院すれば誰でも院内学級に入れるわけではない

―― 教育委員会の許可はもちろん、病院の理解がないと院内学級の設置は難しいのですね…。院内学級の形態は掴めてきたのですが、子どもたちはどうやって院内学級に入学してくるのでしょうか? 入院したら誰でも院内学級に入れるのですか?

赫多: 院内学級と言っても様々な形態があるため、転入学する手続きにもバラツキがあります。さらに、各教育委員会でそれぞれ基準も異なりますし、学籍の問題も関わってきます。例えば、数週間以上の入院見込みでないと対象としない教育委員会もあれば、2、3日の入院であっても院内学級に通わせてくれる教育委員会もあるんです。

――数週間と2,3日は全然違いますね! 学籍の問題とはどんなものですか?

赫多: 皆さんは小学校・中学校のとき、自分の通っている学校に所属していることを示すために学籍というものがあったと思います。入院によって、通常学級からいわゆる院内学級に転校しなければならないことがあるんです。

―― 転校にまで発展するのですか!?なぜそこまで大掛かりになってしまうのでしょうか?

赫多: 例えば、A小学校の子が病院に入院したとき、入院先の病院で教育を受けるためには特別支援学校や学級に学籍を移さなければならないことが起きます。そうすると転校という形を原則的に取らなければなりません。そうでなければ、入院先の中のいわゆる院内学級で勉強することはできませんと固く言われる場合もあります。

最近は、文部科学省も柔軟に対応するように教育委員会に通知を出すようになり、短い期間であれば、籍を移さないで勉強をすることが可能になりつつあります。それでも、なかには従来の方針のままの教育委員会があります。何十年も前から「転籍の問題が解決しないが故に教育を受ける機会を失っている子どもがいるので、籍の移動なしで、入院したらすぐに教育を受けられる制度になってほしい」と私たちも言い続けているのですが、なかなか変わりません。

―― なぜ、学籍の手続きに関して柔軟に対応することができないのでしょうか?

赫多: 日本の場合、子どもの学籍の数で先生の数が決まるからです。

しかし、例外もあります。ドラマ「赤鼻のセンセイ」のモデルになった副島先生は、現在教員という立場ではなく、昭和大学の准教授という特殊な立場で院内学級に関わっています。そこでは子どもの入院日数が少なく、1週間以内で退院していく場合が多いそうです。そのため籍を移さず、教育相談という形で対応しています。院内学級に出席した分を、籍のある学校の校長先生とのやりとりで出席扱いにすることもしています。副島先生が教員だった頃から、このようなことが定着していました。全国的にこの形が広がれば良いのですが、なかなか難しいようです。

(1回目終わり。次回、「院内学級はどんな授業をするのか?」に続く)

■取材雑感

 今回、赫多さんに取材を通して院内学級内で教育格差が生まれるひとつの原因として、各教育委員会の院内学級の基本的な整備が揃えられてないと感じた。入院期間によって教育を受けることができる、受けることができない話が地域によって異なることは、子どもたちに対して、平等に教育を受ける権利が保障されているとは言い難い。地域ごとに教育委員会の院内学級に関するルールが決まっていないことは教育格差を生んでしまう原因のひとつになるのではないだろうか。

※病弱な子どものための教育の現状

 病弱の子どもの教育支援制度は主に「特別支援学校」「小・中学校の病弱・身体虚弱特別支援学級」に分けられる。

 「特別支援学校」はさらに「特別支援学校(病弱)」「分校・分教室」「訪問教育」の三つにわけることができる。「特別支援学校(病弱)」は病院に隣接、併設する場合が多く、各都道府県に1~2校が設置され、学年、発達段階、病状を考慮しながら教育が行われる。「分校・分教室」は病院に併設され通学なしで「特別支援学校」と同じ教育を受けることができる。「訪問教育」は上記のような教育機関がない場合や自宅での療養期間が長いときに、特別支援学校から教師が病院、施設、自宅に派遣される仕組みとなっている。

 一方、「小・中学校の病弱・身体虚弱特別支援学級」は病院内または通常学校に設置される。前者は病気で入院する子どもを対象とし、小・中学校と同じカリキュラムで構成される。後者は、退院後も引き続き、治療が必要な子ども、日常的に通院する子ども、通常学級のペースに体力がついていかない子どもを対象にした教育がおこなわれる。

第2回 「院内学級はどんな授業をするのか?」(http://www.trapro.jp/articles/524)

第3回「院内学級には、病気の子に対して想像力を持てる教師にきてほしい」(http://www.trapro.jp/articles/525)

最終回「院内学級が希望を与える場所であり続けるには」(http://trapro.jp/articles/539)

赫多 久美子(かくた くみこ)

1962年、神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院修了。立教大学文学部兼任講師、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所教育情報部研究補佐員、認定NPO法人難病の子ども支援全国ネットワーク運営委員。中学生の頃、訪問教育の教員のテレビ番組を視聴したことがきっかけで、 病気の子どもの教育に興味を持つ。小学校教諭、特別支援学校教諭を経て、現職。

<スタディツアーを提供する旅行会社「Ridilover(リディラバ)」のメディア「TRAPRO(トラプロ)」に2015年12月23日に掲載された記事です。身近にあるのになかなか気づきにくい社会問題を発信しています。社会の無関心を打破し、新たな発見と出合えるメディアです。http://www.trapro.jp/>