文部科学省は18日、2017年春から高校1年生が使用する教科書の検定結果を公表した。尖閣諸島(沖縄県)など領土の記述が現行の1・6倍に増えたのが特徴だ。地理、日本史、現代社会、政治・経済の全24点が記載した。

 文科省は14年1月、教科書作成の指針となる「学習指導要領解説書」を改定し、尖閣と竹島(島根県)を「固有の領土」と明記するよう教科書会社に求めた。昨年度の中学校教科書検定に続き、高校教科書では初めて適用された。

 検定基準も改定され、(1)近現代史で通説な見解がない数字などの事項は、そのことを明示する(2)政府の統一的な見解や最高裁判例に基づく記述をする-よう求めている。

 その結果、南京事件で日本軍に殺害された中国人や関東大震災で殺害された朝鮮人の人数、太平洋戦争をめぐる戦後補償では個人に対する補償には応じられない、との見解を明確にさせた。

 尖閣をめぐっては現代社会で全10点のうち8点に検定意見が付いた。例えば「中国や台湾当局が、沖縄県に属する尖閣列島の領有権を主張しているという問題が生じている」は、「中国や台湾当局は、沖縄県に属する尖閣諸島の領有権を主張しているが、日本政府は領有権問題はないとしている」に修正された。

 領有権が日本にあると明記することに異論はない。気になるのは中国・韓国の主張の歴史的な背景にまで踏み込んで載せた教科書はほぼないということだ。領土ナショナリズムを植え付け、中国・韓国への敵愾心(てきがいしん)をあおることにならないか。領土問題が存在するのは事実であり、相手の主張にも耳を傾け自ら考えることが学びの姿ではないのか。

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 沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」は日本史の計6点のうち5点が取り上げた。「味方であるはずの日本軍による県民の殺害、『集団自決』の強要などの悲劇も生じた」「日本軍は手榴(りゅう)弾を配るなどして、800人以上の県民を『集団自決』(強制集団死)に追いこんだ」などと記述している。記述は各社とも前回検定とほぼ同じである。

 集団自決が問題になったのは06年度検定だった。07年9月に11万人(主催者発表)が結集した県民大会が開かれ、その後の運動で「関与」を示す記述は復活したが、強制性の明示には至っていない。

 文科省は「軍命」や「軍の強制」を認めていない。06年度に集団自決に付けた「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との検定意見も撤回されていない。これでは住民を巻き込んだ沖縄戦の実相が伝わらない。

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 政府見解を盛り込むことを義務化し、それを忖度(そんたく)した教科書会社が自制すると、多様であるべき教科書を縛り、画一化が進む。かつての「国定教科書」を思い起こさせる。

 高校教育は知識偏重から脱却し、物事を多面的にみて思考力を付ける流れにある。

 18歳から選挙権が与えられ、物事を多面的に捉える力が求められる。政府による「書かせる検定」では、多様な意見を封じ込め、柔軟性が失われることを危惧する。