事実誤認の上に立った政治的作為の感じられる文章である。インターネット上にはんらんする情報をつまみ食いしたような記述が文部科学省の教科書検定を通過したというのだから驚きだ。

 問題になっているのは、来春から全国の高校で使われる帝国書院の「新現代社会」。この中に「沖縄とアメリカ軍基地」という題のコラムが掲載されている。基地の経済効果が軍用地料や基地従業員の給与、軍人とその家族の消費を含め「2000億円以上にのぼる」と指摘した上で、コラムはこう記している。

 「また日本政府も、事実上は基地の存続とひきかえに、ばくだいな振興資金を沖縄県に支出しており、県内の経済が基地に依存している度合いはきわめて高い」

 「基地の存続とひきかえに」という表現は、復帰前の歴史と沖縄振興特別措置法が成立した経緯、その目的を無視した誤った記述である。

 沖縄振興予算は、戦後27年間も米軍支配下に置かれた歴史的事情や、本土との著しい格差、島しょ県でしかも本土から離れた遠隔地にあるという地理的事情、1人当たり県民所得の低さなどを考慮したもので、基地受け入れの見返りではない。

 「ばくだいな振興資金」というあいまいな表現も誤解を招く恐れがある。2015年度の国の沖縄振興予算は3340億円。コラムの執筆者は、これがまるまる「基地の存続とひきかえ」に計上されていると考えているふしがあるが、完全な誤解だ。

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 国の予算は、各省庁の要求に基づいて各省庁に予算計上されるが、沖縄振興予算は、内閣府沖縄担当部局に一括して計上される。

 沖縄県と同じように他県も国から多くの金を国庫支出金や地方交付税交付金などの形で受け取っているが、一括計上制度をとっていないため、各県の振興予算の総額が沖縄振興予算のように表に出ることはなく、沖縄だけが「ばくだいな振興資金」を受けていると思われているのである。

 1人当たりの行政投資額は、全国の上位にはあるが、決して突出しているわけではなく、12年度は10位以内にも入っていない。

 辺野古移設問題が浮上してから、アメとムチの政策によって基地がらみのお金が投入されるようになったが、これは沖縄振興予算とは別物。

 基地の経済効果についても、現に大きな経済効果を生んでいる返還軍用地の跡利用には何も触れていない。

 何が言いたいのか、意味不明の記述もある。

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 返還軍用地の跡利用が進み、観光産業などが飛躍的に伸びたこともあって基地依存度は5%台まで低下した。

 沖縄21世紀ビジョン基本計画が指摘するように、沖縄経済は「基地に依存した経済から徐々に脱却し、民間主導型経済に移りつつ」あり、基地の集中によって「経済発展の可能性が抑制されている」との認識が共有され始めているのである。

 客観性、公平性、正確性を欠いた記述は教科書にふさわしくない。改めるべきだ。