朝鮮戦争の休戦から65年、史上初の米朝首脳会談が12日、ジェット・コースターのような曲折を経て、ようやく実現した。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は会談前、会場となったシンガポールのホテルで固い握手を交わし、会談の歴史的意義をアピールした。

 戦後の苦難を生きた韓国国民や在日コリアンにとってこの光景は、心を揺さぶられるものがあったに違いない。

 首脳会談の成果は、困難視されていた会談を実現し、共通の目標を合意文書にまとめたこと、それによって朝鮮半島に緊張緩和の風を吹き込んだこと、である。

 ただ、首脳会談には、合意そのものが空文化しかねない危うい側面がある。

 米国や日本が求めていたのは北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)だった。共同声明にはCVIDの文言がなく、非核化の具体的な手順にも触れていない。

 4月の南北首脳会談で確認された「板門店宣言」を再確認する形で、「北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力する」と述べるのにとどまっている。

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 「板門店宣言」から一歩も進んでいない大ざっぱな内容なのである。なぜ、こんなことになってしまったのか。

 トランプ大統領は、十分な詰めも政府内部の検討もないまま、首脳会談を即断即決した。

 北朝鮮は実質的な核保有国である。核関連施設と核関連物質がどこにどれだけあるか、それをいつまでにどのような手順で廃棄するか。厳密な査察と検証が欠かせない。

 段階的な非核化と進展に応じた見返りを求める北朝鮮との間で、非核化に向けた調整を図るのは、極めて複雑な作業だ。

 トランプ氏も記者会見で「詳細を詰めるには時間がなかった」と見通しの甘さを認めざるをえなかった。 

 確認された共通目標に向かって、今後、非核化をどう具体化していくか。後戻りは許されない。

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 首脳会談のもう一つの焦点であった北朝鮮の体制保証について、共同声明は、朝鮮半島の完全非核化の見返りとして「北朝鮮に安全の保証を与える」ことを約束している。

 ただ、朝鮮戦争の「終結宣言」まで踏み込んだわけではなく、そのあとの「平和協定締結↓国交正常化」にも触れていない。

 「非核化」も「体制保証」も抽象的表現にとどまり、具体性に欠ける。大急ぎでまとめた印象は否めない。

 記者会見で明らかになったのは、外交とビジネスを区別せず、何事も金銭的な損得勘定で判断するトランプ流の考え方だ。

 トランプ氏は、北朝鮮との対話継続中は米韓合同演習を中止する考えを明らかにし、「中止によって多額の費用を節約できる」ことを理由に挙げた。

 「将来、在韓米軍を縮小したり撤収させたりする可能性がある」ことにも触れたが、ここでも念頭にあるのは「費用の節約」だろう。

 北朝鮮の非核化に向けた費用についても「日韓両国は経済支援の用意があり、米国が支援する必要はない」と言い切った。

 トランプ流の米軍再編が進めば、沖縄の基地負担が増すおそれがある。

 南北首脳会談や米朝首脳会談の実現の過程で、日本は局外者の悲哀を味わってきた。

 トランプ氏が会談の中止を打ち出すといち早く支持を表明し、予定通り開催することを決めると手のひらを返したように期待感を表明する。  「日米は常にともにある」(安倍晋三首相)と言いながら米国に付き従う安倍外交の姿勢は危うい。

 トランプ氏は、安倍首相の要請を受け、首脳会談で拉致問題を取り上げたことを明らかにした。拉致問題を解決するためには、北朝鮮との関係改善が欠かせない。

 日朝首脳会談の実現はそのための必須の条件だ。拉致問題の解決と、不幸な過去の清算を展望した日本独自の取り組みを求めたい。