「哀れなメキシコ、天国からこんなに遠く、アメリカからこんなに近く」。20代のころ旅先のメキシコと米国の国境フェンスで、スペイン語の落書きを見つけ、思わず手帳に書き留めた

▼19世紀のディアス大統領が地理的、政治的状況を嘆いた言葉だと後に知った。隣接する両国には今も1人当たりのGDPで6倍以上の格差がある。国境の壁建設を明言するトランプ大統領の就任以降、米国の「上から目線」は強まるばかり

▼そんなメキシコの友人が「唯一アメリカに勝てる」と誇るのがサッカーだ。14日開幕したW杯の初戦で同国代表は世界ランク1位の王者ドイツを破った。首都メキシコ市はよほどの歓喜だったのか、大勢が跳びはねたためと推測される微弱な地震を観測したという

▼政治や経済では米国が「世界の盟主」として君臨し、ポピュラー音楽や映画も米国文化が世界を席巻する。サッカーは米国が一番ではない数少ないメジャースポーツだ

▼中継を見ながら、モロッコやウルグアイという国についてほとんど知らないことに気付く。強豪アルゼンチンと引き分けた北欧のアイスランドは人口35万人。那覇市と南風原町を合わせた規模の小国に興味が湧く

▼世界は多様で、人々が一喜一憂しながら生きている。4年に1度の祭典が改めて教えてくれる。日本の次の相手はセネガル。(田嶋正雄)