たまたま翻訳ミスが表に出た形だが、問題の根をたぐり寄せていくと、本土からは見えにくい基地問題の核心部分につきあたる。

 残留性有機汚染物質のフッ素化合物PFOS(ピーホス)が米軍嘉手納基地周辺の河川などから検出された問題で、沖縄防衛局は県企業局の要請文を英訳し、米軍に提出した。その文章の中に、「企業局」の英語表記の間違い、単語の誤用、文法上のミスなど、複数の誤訳が含まれていたのである。

 簡易翻訳ソフトを使って訳したような文章、だと米国籍の大学教員は指摘している(8日付社会面)。

 県企業局は要請文で、ピーホス使用を「ただちに中止」するよう求めているが、防衛局が別途、米軍に提出した文書では表現が大幅に薄められ、「可能な限りの抑制」という文言に変わっていた。企業局の懸念が米軍に伝わったかどうか、疑わしい。

 この問題を単なる翻訳ミスの問題だと片付けることができないのは、沖縄防衛局という組織が、誰のために仕事をしているのかという本質的な問題をはらんでいるからだ。

 基地の安定運用と事件事故対応などを業務とする沖縄防衛局には、本来的にどっちつかずのところがある。強いて言えば、基地の安定運用を優先し、米軍に対して強く言えない体質を復帰以来、ずっと持っていた。

 だとすれば、米軍基地が集中し基地問題が多発する沖縄で、住民の人権や自治権、環境権は誰が守るのか-それが問題だ。

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 東京電力福島第1原発事故が起きるまで、原子力利用を推進してきた経済産業省の中に、推進役の資源エネルギー庁と規制役の原子力安全・保安院が同居し、結局、保安院は規制の役割を十分に果たすことができず、事故後に解体された。

 たとえて言えば、沖縄防衛局も外務省沖縄事務所も推進役と仲介役の二つの役割を兼ね備えているが、規制役としての機能は極めて不十分で、肝心なところでは推進役としての仕事を優先させてきた。

 地位協定や日米合同委員会の合意事項が国内法よりも優先され、基地の円滑な運用のために住民の人権や自治体の自治権は制約を受ける。

 2013年8月、キャンプ・ハンセンで起きた米軍救難ヘリの墜落事故では、宜野座村は大川ダムからの取水をおよそ1年間、停止した。飲料用ダムの近くであったにもかかわらず、約7カ月間、米軍の許可が下りず、現場調査ができなかった。

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 日米両政府は昨年10月、環境補足協定の締結に合意したが、これにしても基地内調査が可能な前提として「米側から通報があった場合」「米軍の運用を妨げない限り」などの条件がつけられ、曖昧な部分を残している。

 必要なのは、米軍事案に対する国内法適用と、主権者である住民の立場に立って規制役を果たすことのできる独立した機関の設置である。

 異常が日常化している状態はやはり異常だ。