桜前線はもう東北あたり。今年は久しぶりに、出張先の佐賀で「春」を捕まえることができた。城跡のお堀沿いは淡いピンク色に染まっていた

▼浮かれてカメラのファインダーをのぞいているうちに、遠近感が失われていく。とても美しいのだが、どこを切り取っても似たような絵になることに気付く

▼ソメイヨシノは接ぎ木で生まれる。限られた木の遺伝子を受け継ぐ「クローン」だ。だから一斉に咲いて、一斉に散る。幕末から明治にかけて全国的な流行が始まり、今や日本の桜の8割を占めるという。各地に自生する多様な桜を一色に塗り替えてきた

▼新しい花なのに、日本の伝統や武士道を象徴するかのように語られたのも特徴だ。「散際(ちりぎわ)の最も潔白にしてかつ優美なる」「一箇(いっこ)一箇の花よりは、一枝の花の集合体を以(もっ)て優れりとなす」

▼朝鮮半島にも植えられ、その物語が軍国主義に利用された。社会学者の佐藤俊樹氏は著書「桜が創った『日本』」の中で「『同じ春』を国家全域に広めることで、ナショナリティの空間をリアルなものに見せていった」と書いた

▼翻って沖縄は、寒さが足りずソメイヨシノが咲かない。現代の桜前線予報にも登場しない。「同じ春」は訪れず、代わりにカンヒザクラが鮮やかなピンクの花を付ける。はらはらと散らない、しぶとさが頼もしい。(阿部岳)