小学校低学年の夏休みのある日。いつもは気にも留めないラジオから珍しく童話が流れているので耳を澄ました

 ▼太平洋戦争中に動物園で飼っていたゾウが餓死させられる物語。トンキーとワンリーが、えさをもらおうとしてやせこけた体で芸当を始めるシーンでは大粒の涙を流した

 ▼数年後、事実を基にした反戦童話「かわいそうな ぞう」(土家由岐雄著、金の星社)だと知った。もう幾年かして、声の主は評論家の秋山ちえ子さんで、8月15日の終戦記念日に毎年、朗読していると聞いた

 ▼訃報に接し、久しぶりに茶色にくすんだ本を広げたら、秋山さんの凛(りん)とした声が付いてきた。声には「頑迷と言われても変えない。根底に筋を通さないと」という姿勢が表れている

 ▼女性放送ジャーナリストの草分け。45年続いた「秋山ちえ子の談話室」では時事問題から本や芝居の紹介まで、幅広い話題を分かりやすく歯切れ良く語っていた。暮らしの中で書き留めたノート500冊以上のメモが「ラジオコラム」「しゃべるエッセイスト」と言わしめた

 ▼福祉と平和にこだわり続けた。「取り残される人がいないような社会にしなければならない。もめ事を戦争で解決しちゃ駄目」「(ラジオで)自分が思っていることは何でも言えた」。平易な言葉は重く、今を生きる者への遺言に聞こえる。(与那嶺一枝)