値上げの春。アイスキャンディー「ガリガリ君」は60円から70円になった。CMが話題だ。経営者と社員がずらりと並び、一斉に頭を下げる。BGMは高田渡さんの「値上げ」

▼「値上げはぜんぜん考えぬ」と歌い出したのに「なるべく値上げはさけたい」に変わり、最後は「値上げに踏み切ろう」。言葉のなし崩しを皮肉る

▼確かに買う時は安い方がいい。値上げは消費者の敵だ。一方、働く時は高い給料がほしい。経営者は商品を安くするのに給料を抑えるのが常だから、私たちの自然な欲求も実はずいぶん矛盾している

▼昨年、物価世界一と言われるスイスに行った。マクドナルドのハンバーガーセットは約1600円。支払いでは動揺したが、店員の時給もそれ以上あると聞いて少し納得した

▼現地で暮らす日本人男性は部屋の掃除を人に頼んでいる。時給は2800円ほど。「人件費が特に高い。その分罪悪感はないです」。労働に正当な対価を支払い、搾取しない「フェアトレード」の考え方や、ファストフードの時給1500円を求める運動にも通じる

▼全ての経営者が利益をため込まず、きちんと労働者に配分してくれるなら高い代金を払ってもいい気がする。回り回って私の給料も上がるはずだ。頭では理解できるのに、30円引きのクーポンを大事に持ち歩いてしまう。(阿部岳)