「検閲」は憲法によって明確に禁じられている。だが、政府の意向を忖度(そんたく)する空気が組織に浸透し、メディア自身による「自己検閲」が広がっているとしたら…。

 表現の自由に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏は、日本での調査を終え東京都内で記者会見し、「メディアの独立が深刻な脅威に直面している」と警告した。

 ケイ氏は国際人権法に精通する米カリフォルニア大アーバイン校の教授。2014年8月、国連人権理事会から「言論および表現の自由の保護に関する特別報告者」に任命された。いかなる政府、組織からも独立した立場で対象国の人権状況を調査し、報告書を人権理事会に提出する。

 ケイ氏が特に懸念を表明したのは特定秘密保護法と、放送法を根拠にした政府のテレビ局への圧力、在日韓国人など少数派に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)、名護市辺野古の新基地建設をめぐる過剰警備や沖縄メディアに対する圧力、の4点。

 ケイ氏の指摘は、三つの点で重要である。

 第1に、国内で論じられてきた表現の自由・報道の自由をめぐるさまざまな問題が「国際世論」や「国連標準」から見ても深刻な状況だと、国連特別報告者が認定したこと。第2に、特定秘密保護法や放送法について、法改正の必要性にまで踏み込んだこと。

 第3に、中立性・公平性を求める政府や与党政治家の圧力が「メディアの自己検閲を生み出している」と報道機関内部の弱さをえぐり出したことである。

■    ■

 国際NGO「国境なき記者団」は20日、2016年の「報道の自由度ランキング」を発表した。日本は対象180カ国・地域のうち、前年より順位を落とし72位に。

 「多くのメディアが自主規制し、独立性を欠いている」との指摘は、国連特別報告者のケイ氏の指摘と通じるところがある。

 なぜそういう評価がでてくるのか。批判を正面から受け止める謙虚さと度量が必要だ。国際イメージを軽視してはいけない。

 高市早苗総務相は、放送局が政治的公平性を欠いた放送を繰り返せば、放送法第4条違反を理由に、電波法第76条に基づいて「停波」を命じる可能性もある、ことを明らかにした。

 公平性・中立性を前面に掲げた露骨な威嚇である。だが、肝心の放送局からは正面切った反論がなかった。政府は電波事業者に対する免許権だけでなく、停波命令の権限まで持っているからだ。

■    ■

 NHKは人事によって首根っこを押さえられ、民放は、「停波発言」と「スポンサー企業への圧力」をちらつかせることで萎縮ムードが広がっているといわれる。

 テレビ・メディアに対する脅しに対し、ケイ氏は「公平か公平でないかを政府がコントロールしてはならない」と強調する。自由民主主義の核心を言い当てた言葉だ。メディアが政権にひれ伏し、民主主義が危機に陥ったとき、犠牲になるのは「自由」である。