琉球料理の神髄でもある「人の命をつくり、維持する第一のものは食べものである」との考えは、食べもの自体が「薬」であるという「薬食同源」の思想を生んだ。酷暑や台風、干ばつに耐えて生活しなければならなかった琉球人は、健康で長生きするために日頃の食生活で対処しようと、さまざまな知恵や工夫を食材や料理に込めた。

(イラスト・いらすとや)

 その結果、琉球料理には滋養強壮の効果や病気に対する治療や予防効果あると言われているのである。それらの料理例を幾つか挙げてみよう。「肝の煎じ汁」は、豚か牛の肝臓と赤肉、島ニンジンを刻んで長時間煮てから汁を実ごと食べる。貧血症、目の悪い人、滋養強壮によく効くとされる。

 「やぶ甘草と牛肉の煎じ汁」は、甘草の根元の白い茎の部分を細切りにし、薄切りの牛肉とともに中火でじっくり煮る。その中に泡盛と豚脂を少しずつ加え、みそで味をつけ、汁ごと実を食べる。不眠症、疲労回復、解熱、利尿、滋養強壮に効くとされる。

 「豚足とパパイアの汁」は、パパイアの皮をむき、種を除いて一口大に切り、水に浸してアクを抜く。これを豚足といっしょに長時間煮る。味付けはみそ。出産後の母乳の出がよくなり、滋養を増すという。これらの例のほか、伝承されてきた琉球料理の多くが滋養強壮食と言える。

 琉球料理の食材の中でも薬効があり、体によいものとしては、にがな、よもぎ(フーチバー)、ういきょう、やぶかんぞう、にがうり(ゴーヤー)、すいぜんじな(ハンダマ)などの緑色の濃い野菜がよいと昔から伝わる。また海藻では昆布、アオサ(アーサ)、もずく(スヌイ)、ひじき、イバラノリ(モーイ)などが体に良いとされてきた。以下、琉球料理に頻繁に使われるゴーヤーと、スヌイを例に、研究で解明された効能について述べる。

 ゴーヤーチャンプルは代表的な沖縄料理で、ゴーヤーと島豆腐を卵でとじた炒めものである。これが夏バテによく効くと昔から言われてきたが、ほろ苦いゴーヤーには驚くべき薬効が宿っていることが知られている。健胃作用、下痢止め、解熱作用は以前から周知されてきたが、最近の研究では特に種子に抗血栓作用のある成分の存在が知られ、脳梗塞、心筋梗塞、高血圧症などの予防として注目されている。「2014年度患者調査」(厚生労働省)によると、全国47都道府県別で高血圧で治療を受ける人の受療率ランキング(一〇万人当たり)では沖縄県は全国で二番目に少ない。

 スヌイは主に酢のもので食べる。特有の粘質性があって、すするとズルリとする触感を持つが、あのぬるぬるの正体は「フコイダン」という成分である。これまでの研究では、糖分の吸収をゆるやかにして食後の血糖値の急速な上昇を抑えること、血液中のコレステロール値を減少させる効果などが分かり、糖尿病や高脂血症の予防にすすめられてきた。また、フコイダンは排便をうながす働きがあるので便秘の解消としてもよいとされる。さらに琉球大学の研究によって、血中コレステロールを低下させ、肝機能を正常にする働きのあることもわかった。

 このように、「ゴーヤー」と「もずく」という二つの食材を見ただけでも、これほどの薬効が期待できるのであるから、多彩な食材を使う琉球料理は、やはり比類なき「滋養食の宝庫」と言えるのではないか。(東京農業大学名誉教授)