特定の人種や民族に過激な言葉を浴びせ、差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)。国会で、ヘイトスピーチを抑止するための与党案と野党案が出そろい審議に入っている。立法に向けてやっと重い腰を上げた。

 野党の旧民主、社民などは昨年5月に共同提出。与党の自公は今月に提出した。

 与党の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた」法律案。「本邦外出身者」とは、日本以外の国の出身者やその子孫で、適法に居住している者のことだ。

 法律案では、日本以外の出身者らに「差別意識を助長する目的で、公然と生命、身体、自由、名誉、財産に危害を加える旨を告知する」ことなどを不当な差別的言動と定義。国や自治体に、相談体制の整備、教育、啓発活動などを求める。憲法が保障する「表現の自由」を尊重し、禁止や罰則の規定を盛り込まず「理念法」にとどまっている。実効性が保てるかが課題だ。

 一方、野党の「人種等を理由とする差別の撤廃のための」法律案。ヘイトスピーチを「人種等を理由とする差別」と定義し、インターネットを通じて行われる差別にも広げているのが特徴だ。

 実態調査のため、有識者で構成される審議会を内閣府に設置することも盛り込んでいる。実効性を担保するため「差別の禁止」規定に踏み込んでいるが、罰則は設けていない。こちらも理念法である。

 禁止規定は、捜査当局の恣(し)意(い)的(てき)な解釈によって、正当なデモや集会にまで取り締まりの対象が広がらないかどうか、懸念が残る。

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 与党案で気になることがある。「本邦外出身者」という表現である。与党案をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で解説している自民党議員が、米国軍人に対する排除的発言も対象となる、との趣旨の話を発信しているからだ。辺野古新基地建設問題などが念頭にあるようだ。そもそもヘイトスピーチはマイノリティーに対するものだ。米軍人は日米地位協定によって特権的な地位を与えられ、マイノリティーでもない。

 与党の法案にその意図が隠されているのであれば、憲法で保障された「表現の自由」に基づき、米軍基地問題で住民らが「米軍は沖縄から出て行け」などと叫べばヘイトスピーチとされる恐れがある。国会審議でたださなければならない重要な点だ。

 県内の首長らが2013年、オスプレイ配備撤回などを求めて東京・銀座をデモ行進した際、街頭から「売国奴」「沖縄は出て行け」などとヘイトスピーチを投げられた。民意を背景にした正当なデモに、ヘイトスピーチを浴びせるのは許せるものではない。

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 国際社会が日本のヘイトスピーチに注ぐ目は厳しい。14年には、国連の自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会が相次いで日本政府にヘイトスピーチを禁じ加害者を処罰する法整備などを勧告した。

 与野党は「表現の自由」の保障に注意を払いつつ、法律案の「実効性」を高める議論を徹底してもらいたい。