「戦争は人間の本能ではない」ようだ。山口大の中尾央助教らの研究グループが、縄文時代の人骨2582点のデータを調べた

▼成人のうち、武器が刺さるなど暴力で死亡したのは1・8%だけ。欧米などではこの割合が十数%とされ、「本能説」の根拠になってきた。少なくとも日本は5分の1以下で、この説は人類全体に適用できない

▼イギリスの哲学者ホッブズは、人は自然の状態ではエゴに支配され「万人の万人に対する闘争」が起きると主張した。これに対し、「争いは運命ではない」「ほかに理由がある」というのが研究グループのメッセージ

▼戦争が起きる理由を考えてみる。開戦を決め、利益を得る人が戦場に行かない社会構造。国民の集団心理が暴走することもある。それから、抑止力論に支えられた軍拡競争も発火点になる

▼「攻めたら痛い目に遭うと知らせ、思いとどまらせる」のが抑止力論。他国が必ず攻めてくるという誤った「本能説」を前提にしている。「米軍が撤退すれば中国が攻めてくる」という言説も同じだ

▼1962年のキューバ危機では、核の抑止力が機能しないまま米ソ対立がエスカレートした。人類滅亡を回避したのは土壇場での指導者の理性だった。危険な抑止力論の呪縛を解く鍵は、人間の本能と理性を信頼することにあるのではないか。(阿部岳)