NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長が、熊本地震発生後に開いた局内の会議で、原発報道について住民の不安をいたずらにかき立てないよう公式発表をベースに伝えてほしい、と指示していたことが明らかになった。

 「公式発表をベースに」とは、どういうことなのか。

 4月26日の衆院総務委員会で発言内容を問われた籾井会長は「不必要な混乱を避けるという意味で、事実に基づいた報道が住民に安心感を与える」と弁明。同時にモニタリングポストの数値、原子力規制委員会の判断などを「コメントを加味せず」公式発表をベースに伝えていく考えを改めて示した。

 発言には局内外から批判の声が上がっている。

 NHK職員でつくる日本放送労働組合は「もし行政の判断や活動に問題がある場合には、批判するのも当然の役割」「『事実』はNHK独自の取材活動のなかで見いだされるものだ」との見解を出した。

 5年前の福島第1原発事故では、時の民主党政権や当事者である東京電力の対応に問題が多かった。放射性物質の拡散を予測するシステム「SPEEDI」についても公表が遅れ、住民避難に生かされることはなかった。

 多様な視座を提示し、行政の公式発表をさまざまな角度から検証し、原発の安全性をチェックするのが報道機関としての役割である。

 熊本地震で懸念されているのは、震源地からそう遠くない場所で稼働する九州電力川内原発への影響だ。

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 籾井会長は過去にも、公共放送の最高責任者としての適格性が疑われるような言動を繰り返してきた。

 一昨年の会長就任会見で、領土問題について「政府が『右』と言うものを『左』と言うわけにはいかない」、特定秘密保護法について「(法案が)通ったので、もう言ってもしょうがないんじゃないか」と語り、物議を醸した。

 会長の任命権を持つのはNHK経営委員会だが、その委員には安倍晋三首相に近い人たちが任命されている。

 籾井氏が会長に就任する前、自民党内には原発に関するNHK報道が「偏向」しているとの批判が強かった。今回の発言は政府の立場を気遣い、代弁しているようにも見える。

 会長の度重なる問題発言によって現場が萎縮し「忖度(そんたく)」する空気が広がれば、日本の放送ジャーナリズム全体にとってもマイナスとなる。 

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 籾井会長になって以降、3年続けて、NHK予算の全会一致による国会承認という慣例が崩れていることを重く受け止めてほしい。国民からの受信料で成り立つNHKへの批判がやまないのは、会長のジャーナリズムへの理解を欠いた言動と無関係ではない。

 民主主義社会において公共放送に期待される役割の一つに権力の監視がある。

 政府を監視するというメディア本来の姿勢が弱まり、会長の意向によって政権寄りの報道が続けば、NHKがこれまで営々と築いてきた信頼は失われる。