〈人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら〉。長崎で被爆した歌人・竹山広さん(故人)の作品がある。原爆で殺された人がまとめて火葬される。その中に一人の死者の手のひらが開いていくのを見た

▼恐ろしい被爆体験に、その後もせい惨な地獄絵を目の当たりにし続けた竹山さんは、体験を1冊の歌集にまとめるまでに36年かかった。思い起こす辛さが長く沈黙させるが、記憶を自分だけの胸にしまっておくのも辛かったと語っていた

▼沖縄戦の話を聞くときにも、体験者が何か胸をふさがれているように感じることがある。竹山さんの歌にも通じるが、体験がいかにすさまじいものであったかを推しはかるべきであろう

▼オバマ米大統領が被爆地、広島の訪問を決めた。「核なき世界」の理想を再び世界に発信したいとの意欲ゆえだろうが、戦後71年、遅きに失した感がある

▼被爆者は核廃絶を訴えてきた。大統領は原爆投下の是非や、核の非人道性には言及しないだろうから、ずれは大きい。それでも被爆者は歓迎し、歴史的な訪問で何を語るかに注目する

▼被爆者と対話の機会を求める声は根強い。横たわる深い溝を埋めるには、キノコ雲の下に広がった惨状を聞き、直視することが必要であろう。「核なき世界」の言葉に魂を吹き込んでもらいたい。(宮城栄作)