沖縄県中城村に住む元中学校教諭の仲座包子(かねこ)さん(78)が、教員生活の最後に担任を務めたクラスの卒業文集をめくると「安室奈美恵」と書かれたページだけ「思い出」の欄が真っ白だ。3年生になると芸能活動でほとんど学校に来られなかった少女は、進路を心配する仲座さんに言い切ったという。「高校には行きません。歌とダンスで生きていくから」。その迷いのない視線を仲座さんは忘れられない。(社会部・新垣綾子)

安室さんは芸能界の仕事が忙しく、中学校の卒業式を欠席。返せなかった名前入りのゴム印を仲座さんは大切に残していた

安室奈美恵さんが在籍したクラスの卒業文集をめくる仲座包子さん。「あなたは沖縄の宝よ」と呼び掛けた=8月、中城村内の自宅

安室さんは芸能界の仕事が忙しく、中学校の卒業式を欠席。返せなかった名前入りのゴム印を仲座さんは大切に残していた 安室奈美恵さんが在籍したクラスの卒業文集をめくる仲座包子さん。「あなたは沖縄の宝よ」と呼び掛けた=8月、中城村内の自宅

 大きな目に細長い手足。安室奈美恵さん(40)の第一印象は「子鹿のバンビ」だった。この年の秋にグループでメジャーデビューすることになる安室さんは既に、金曜日に上京して土日にテレビやCMの収録をこなす日々。仲座さんには「火曜日から金曜日の朝までは学校に行く」と宣言したが、その約束も始業式から1カ月もすると果たせなくなっていた。

 「人気が出ることはうれしいけれど、東京で誰かにだまされていないか、厳しい芸能界について行けるのか、それだけはとにかく心配で」。近況を聞き取るため頻繁に家庭訪問すると、安室さんの母親は「あの子は三度の食事より、歌と踊りが好きなんです」と苦笑いを交え語った。

 「芸能界に入ったら、教養も身に付けないといけないんじゃない」。ひょっこり学校に現れた安室さんにそう問い掛けると「大学を出たって社会に貢献できるとは限らない。私は中卒でもやります」と返ってきたという。

 「この子はてーげー、がーじゅー(なかなか頑固)だねと思った。それじゃあ、と私は本はたくさん読んでねと言ったの。担任とはいえ彼女に伝えたのはそれぐらいかしら」

 引退発表後、テレビのインタビューに答える安室さんを幾度か目にし「一つ一つのコメントが輝いていたのは、本をたくさん読んだからかな。奈美恵さん、やりたいことを貫いたんだね、すごいねって心の中で繰り返した」と感慨深げ。「長い人生は続く。体に気を付けて新しい道でまた、大輪の花を咲かせてほしい」とエールを送った。