フランス文学者で元東大学長の蓮実重彦さん(80)が三島由紀夫賞受賞で見せた不機嫌な会見が話題だ。物珍しさも手伝ってバラエティー番組も取り上げた

▼受賞イコール喜びの声という分かりやすい構図はみじんもなく、ハレの場でもお構いなし。「はた迷惑な話で、もっと若い方が選ばれるべきだ」「選考委員が暴挙に出た」と終始不愉快そうに述べ、会見場は凍り付いたという

▼芥川賞作家の辻仁成さん(56)にして「ならば候補の段階で辞退するべきでは」「受賞を受けてのこの発言こそ暴挙じゃないか? 若手に失礼」とツイッターで言わしめた。常識的な指摘と思う方も多いだろう

▼凡人にとって蓮実さんといえば、映画評。多彩な知識に深い洞察力、ありがちな評論とまったく違って文章は難解。高邁(こうまい)な映画評を前に、言わんとすることを確実につかめないもどかしさと会見が重なった

▼裏腹に、物事を分かりやすく単純化した言説を求め過ぎる社会の危うさも透けた。歴史をすっ飛ばして「普天間飛行場は田んぼの中にあった」などという誤った認識が広がるのも、その流れにないか

▼蓮実さんは受賞を断らなかった理由を「一切お答えしません。必要ないでしょう」と言い切った。メディアの前でも誰にも忖度(そんたく)せず、分かりやすさを拒否する表現者の姿は、どこかすがすがしい。(与那嶺一枝)