腕時計の電池が切れた。しかも一つしか持っていない。住んでいる名護の大型店で交換をお願いすると、「特殊なメーカーだから那覇に送る。1カ月かかる」と言われてしまった

▼腕時計なしで1カ月は過ごせない。予備を買わないといけないか。途方に暮れた時、ふと名護十字路で時計店を見たような気がした。市営市場に行くと、金城時計店がひっそり営業していた

▼主の金城幸治さん(78)は時計を見て「ふたが開きにくいからみんな嫌がる」と言い、道具を取り出した。ラジカセからフランク永井のムード歌謡が流れる。ジリリと鳴ったのはダイヤル式の黒電話。そして15分後、1カ月待つはずだった電池交換が終わった。まさに昭和の底力

▼金城さんはこの道50年以上。最初は卸の営業だったが、配達先で職人の修理を見て技を盗んだ。時計店が減った今、特殊な修理の依頼は中南部からも舞い込む

▼狭い店内に高さ1メートル以上の立派な金庫が鎮座する。しまっているのはお金ではなく、修理済みの時計。取りに来ないままの人もいるが、大切に保管する。「そうじゃなければ店をやる資格がない」。職人の言葉には、ただうなずくのみ

▼記者だと言うと、小言もいただいた。「新聞はもっといいニュースも載せないと駄目」。そこで、最近一番うれしかったことを書いてみました。(阿部岳)