参院選で「改憲勢力」が3分の2の議席を占めることになれば、衆参ともに憲法改正を発議する条件が整うことになる。改憲の是非が極めて重要な争点である。

 だが、全く論戦になっていない。選挙戦に突入した途端、安倍晋三首相が改憲論議を避けているからだ。

 改憲について安倍首相は年頭の会見で「参院選でしっかり訴えていく。訴えを通じて国民的な議論を深めていきたい」と語り、先の通常国会では「私の在任中に成し遂げたい」と踏み込んだ。

 それなのに、参院選の遊説では「最大のテーマは経済政策だ」と自身の経済政策アベノミクスの成果を訴える。選挙戦術として改憲論議を封印しているのなら、有権者をないがしろにした「争点隠し」と言わざるを得ない。

 憲法改正は安倍首相の悲願である。公示直前のインターネット番組の党首討論会で「参院選の結果を受け、どの条文を変えていくか、条文の中身をどのように考えていくかについて議論を進めていきたい」と語っている。

 これはおかしい。選挙後にどの条文を変えるのかを提示するというのであれば、有権者に投票の判断材料を示さず、選挙後の「白紙委任」を求めるようなものである。

 改憲の行方は国の将来のあり方を決める。選挙後に改憲を進めるのは、あってはならない。有権者に何をどのように変えていくのか改憲の内容を具体的に提示し、真正面から信を問うべきである。

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 公示後に沖縄タイムス社と朝日新聞社が沖縄選挙区で実施した世論調査で安倍政権下での改憲について「反対」59%と過半数を占め、「賛成」は24%にとどまるなど警戒感が強いことがうかがえる。議論もせずに改憲を進めるというのでは本末転倒だ。

 自民党内には、緊急事態条項の創設を改憲の突破口にしたい考えがある。「お試し改憲」である。

 大規模災害や他国から攻撃を受けた場合に権力を内閣に集中させる。国会のコントロールを排し基本的人権を制約する問題含みの条項だ。

 安倍首相も同条項を重要視するが、被災地との認識のギャップが大きい。東日本大震災の被災3県の知事と市町村長計42人の9割超が同条項がなくても人命救助や復旧に支障が出なかったと共同通信のアンケートに答えていることからも明らかだ。現行法で足りているとの認識である。

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 安倍首相は選挙期間中は有権者の反発を招きそうなテーマの争点化を避け、選挙に勝利すると、数の力で押し通す政治手法を繰り返してきた。

 2013年の参院選ではアベノミクスを前面に押し出し、その後に特定秘密保護法を成立させた。消費税増税を先送りした14年の総選挙の後は、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を強行採決した。

 安倍首相は参院選の最大のテーマは経済政策と強調するが、結果次第で改憲に乗り出すのは目に見えている。

 有権者も試されていることを肝に銘じたい。