国のかたちがいびつにゆがんでいく歴史の転換点に私たちは立っている。そんな悲観的な感慨をぬぐいきれない。

 特定秘密保護法は自民、公明両党の賛成で参院特別委員会を可決、参院本会議で成立する見通しとなった。野党や世論の批判を無視した強行採決は、巨大与党のおごりをまざまざと見せつけた。

 拙速さは覆いようもない。担当大臣である森雅子内閣府特命担当相の答弁は二転、三転した。安倍晋三首相は4日の党首討論で、特定秘密の指定・解除をチェックする機関として、「保全監視委員会(仮称)」を内閣官房に新設する方針などを初めて表明。5日午後になって今度は、菅義偉官房長官が特定秘密の指定の妥当性をチェックする「情報保全監察室(仮称)」を内閣府に設置する意向を参院特別委で表明した。

 「重要法案」と強調しながら、中身は継ぎはぎだらけなのが実態だ。国会審議の混乱の元凶は、法案の粗雑さにあるといっても過言ではない。

 政府には当初、強引に採決に持ち込んでも世論やマスコミの反発は限定的との認識があったのではないか。こうした政府の思惑に反して、国民は「知る権利」にかかわる同法案を、暮らしに無関係とは受け取めていない。

 11月に実施された全国電話世論調査で、同法が成立した場合、国民の「知る権利」が守られるとは思わないとの回答は62・9%に上った。法案への賛成は45・9%、反対は41・1%と割れた。

 主権者である国民を置き去りにして、安倍政権はこの国をどこへ導こうとしているのか。想起するのは、麻生太郎副総理兼財務相が7月の都内での講演でこぼした失言だ。

 麻生氏は、日本の憲法改正論議に関連し、「ドイツではある日気づいたら、ワイマール憲法がナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうか」などと述べた。

 「ナチス憲法」の表現は、麻生氏の事実誤認だ。実際には、ワイマール憲法の機能を事実上停止させ、ナチス独裁体制を確立させた「全権委任法」と呼ばれる法律の成立過程を指したとみられる。

 麻生氏は発言後、「喧騒(けんそう)にまぎれて十分な国民的議論のないまま進んでしまったあしき例として挙げた」と弁明した。であれば、麻生氏は「誰も気づかないうちに変わった手口」を日本の政治状況になぞらえ、安倍政権にそうした手段を取らないよう警鐘を鳴らした、とも受け取れる。

 特定秘密保護法は、今国会で既に成立した「国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法」と一体運用するための法律だ。これに加え、安倍政権は来年の通常国会で集団的自衛権の行使を可能とする法案成立をもくろんでいる。

 これらがセットとなれば改憲手続きを経ず、平和憲法は骨抜きにされる。特定秘密保護法は「戦争ができる国」へ改変する安倍政権の基幹政策の序章と捉えるべきだろう。

 民意は特定秘密保護法の慎重審議を求め続けた。報道、映画関係者や作家、大学教員などのグループが次々と反対の声を上げた。市民が連日、「人間の鎖」をつくり、国会議事堂を取り囲んだ。決して「誰も気づかないうちに変わった」のではなく、与党の横暴が際立つ結果を招いた。

 私たちは今、どこに立っているのか。沖縄を舞台にした動きが安倍政権の安保政策の鍵を握る事実に留意したい。

 ターニングポイントは、米軍普天間飛行場の県外・国外移設に挫折した鳩山政権の退陣だ。民主党政権への不信が保守色を強めた自民を中心とする巨大与党の誕生につながった。尖閣問題の過熱は、安倍政権の日米同盟強化路線と中国包囲政策に国内世論のお墨付きを与えた。

 こうした流れの中で、県選出・出身の自民党国会議員や自民党県連は、普天間飛行場の名護市辺野古沿岸への移設容認を働き掛けた中央の圧力に屈するかたちになった。

 沖縄からは安倍政権の本質と危うさがよく見える。なぜか。安倍政権の政策の帰結として、沖縄が紛争の最前線に巻き込まれるリスクを抱えているからだ。沖縄の切実な声が、かき消されることがあってはならない。