人権や民主主義について語った二つの言葉が、これまで以上に、重く響く。特定秘密保護法が成立した今、市民は何をなすべきか。その答えがこの二つの文章の中にある。

 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と、主権者である国民の絶え間ない努力を強調するのは憲法第12条である。

 ロバート・H・ジャクソン米連邦最高裁判事は1950年に、「政府が誤りを犯さないようにすることは、市民の役目である」と言い切った。

 特定秘密保護法は、重大な欠陥を残したまま、強引に採決に持ち込まれ、可決・成立した。知る権利を後退させないためにも、追及の手を緩めるわけにはいかない。

 安倍政権には、強力な政治資産が四つある。7月の参院選で国会のねじれ状態を解消した安倍政権は当分、選挙を意識せずに政策を実現する自由を得た。これが第一の資産。第二の資産は、経済政策「アベノミクス」が一定の成果を上げ、高支持率を維持し続けていることである。

 第三の資産は中国の動きにかかわる。中国の強引な現状変更政策に対する国民の反発や不安が、安倍政権を支えている面は否定できない。

 第四の資産は、自民党に代わり得る強力な野党が存在しないことだ。これら四つの政治資産が安倍政権の政策推進力になっているのである。

 だが、「戦後レジーム(体制)からの脱却」をめざす安倍政権の政治手法は、極めて危険な要素を秘めている。

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 安倍政権に特有な政治手法とは何か。憲法改正に向け、本丸を攻める前に改正手続きを定めた96条をまず改正し、発議要件を緩和するという裏口入学的手法はその典型だ。

 安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認に向けて、内閣法制局長官を容認派に代えた。首相の息のかかった人たちを集めて有識者懇談会を再開し、あらかじめ結論が分かっている議論を始めた。

 その上で早ければ来年、国家安全保障基本法を制定し、憲法改正によらずに集団的自衛権行使を「解禁」するというのである。憲法破壊的な手法というしかない。

 かねがねNHKの報道に疑問を抱いていた安倍首相は、NHK経営委員会(定数12人)の委員5人の国会同意人事にも口を出し、総裁選で安倍氏を応援した保守派の論客や、安倍氏の少年時代の家庭教師、安倍氏と親しい小説家を公共放送機関に送り込んだ。露骨な「お友達人事」だ。

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 特定秘密保護法案をめぐる国会審議で目立ったのは、民主主義の重要な要素である「少数意見の尊重」や「手続きの正当性」を軽んじるような政治手法である。

 「知る権利よりも国家の安全が重要」だと平気で主張する自民党幹部もいた。それがどれほどバランスを欠いた危険な発想であるかに、本人が気づいていない。

 時の政権に対する党と国会の監視機能の低下は、民主主義の健全な発展を妨げる。事態は深刻だ。