都議会での答弁や記者団への説明が二転三転する。説明と矛盾する事実が次々明らかになる。その繰り返しだった。さらに新たな疑惑が報じられる。解明どころか、疑念はますます深まるばかりだ。

 猪瀬直樹東京都知事が辞職を表明した。医療法人「徳洲会」グループから現金5千万円の資金提供を受けていた問題が発覚してから約1カ月。くるくる変わる猪瀬氏の説明に説得力はなく、辞職は当然である。むしろ、遅きに失したと言わざるを得ない。

 都議会は偽証すれば罪に問われる「百条委員会」設置を決め、後継知事に指名した石原慎太郎日本維新の会共同代表から辞職を促された。追い詰められた末の辞職である。

 5千万円を受け取ったのは都知事選への立候補を正式表明する前日である。猪瀬氏は借用書を公表したが、無利子、無担保で返済期限もなかった。常識ではとても考えられない。実印や印紙などもなく本物の借用書なのかどうか疑問が出るのは当たり前だ。

 発覚当初、猪瀬氏は「資金提供という形で応援してもらうことになった」と発言しながら、2時間後には「生活のための個人的な借り入れ」と釈明した。選挙応援の資金提供であれば報告が義務付けられる公職選挙法に違反していることを認識した上での修正発言とみるしかない。

 猪瀬氏は、選挙を前にして5千万円を自ら議員会館に出向き徳田毅衆院議員から受け取っている。辞職表明会見で「政治家はどういうものを受け取ったらいけないということについて詳しい」と語り、自らを「政治のアマチュア」と規定した。政治のプロ、アマ以前の問題である。開いた口がふさがらない。

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 「現金は貸金庫に入れたまま使わなかった」との説明も事実に反し、別の金庫に移していたことが明らかになっている。現金受領後の行動についても変遷続きだ。

 新たな疑惑も浮上している。猪瀬氏が副知事だった昨年11月、毅氏の父、徳田虎雄前徳洲会理事長と面談した際、東京電力病院を取得したいとの意向を伝えられたことが判明している。猪瀬氏は昨年6月、東電の株主総会で筆頭株主の都として出席。同社に売却を迫っている。

 猪瀬氏は当初「話題に出なかった」と否定していたが、会見では「記憶の中では残っていなかった」と東電病院の話が出たことを認めている。

 猪瀬氏は会見で「作家に戻り、情報を発信していきたい」と語った。だが、その前にやるべきことがある。解明しなければならない疑惑があまりにも多すぎるからである。

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 猪瀬氏は5千万円について「個人的借り入れ」との説明を変えなかった。辞職することによって、疑惑が幕引きされると考えているのであれば見当違いも甚だしい。

 説明責任は都知事選で国内最多の433万票を得た有権者への責務でもある。

 東京地検特捜部には公選法違反容疑などで市民グループなどから告発状が提出されている。猪瀬氏が説明を尽くさないのなら、司直の解明を待たなければならない。