4月下旬から行方不明となっていた女性が遺体で発見された。被疑者は元海兵隊員の軍属だという。5月26日、沖縄県議会は、この事件への抗議決議と、在沖海兵隊撤退や日米地位協定の抜本改定を求める決議案を可決した。

木村草太氏

 今回の決議について、米軍関係者の犯罪だけを特別視すべきではなく、基地問題と関連づけて考えるべきではない、という意見もある。確かに、凶悪犯罪は、犯人が誰であれ、あってはならない。また、本土の多くの人にとって、なぜ沖縄での米軍関係者の犯罪が特別な意味を持つのかが分かりにくいのは事実だろう。

 しかし、決議案には、安倍政権の与党である公明党議員も賛成した。自民党議員は、賛成こそしなかったが、全会一致で抗議の意思を示すため、あえて決議を欠席した。今回の決議は、決して一部の政治勢力が事件を政治利用しようとしてなされたものではない。沖縄県民にとって米軍関係者の事件は特別な出来事であり、そう考えることに合理的な理由があると考えるべきだ。

 理由の第一は、基地負担の集中とそれを改善しようとしない中央政治に対する義憤だろう。基地負担が公平なものになれば、沖縄での米軍関係者の犯罪数は激減するはずだ。米軍関係者の犯罪は、不公平に課された基地の負担の一部である。

 第二に、日米地位協定が米軍関係の被疑者を不当に有利に取り扱っているせいで、軍内の規律が乱れているのではないか、との不信も強い。

 協定によれば、米軍関係者が起こした殺人・強盗・強姦(ごうかん)などの犯罪に関する第一次的裁判権は、被害者が米軍関係者に限られる場合を除き、日本側にある(同17条3項b)。また、米軍は、日本側が裁判権を持つ被疑者の身柄の引き渡しに協力する義務がある(同条5項a)。

 しかし、米軍人・軍属である被疑者が米軍に拘束された場合、公訴提起までは、日本側に身柄を引き渡さない(同条5項c)。1995年の米兵暴行事件の際は、この規定のために県警の取り調べがスムーズに進まなかった。

 沖縄県から強い改善要求がなされた結果、ようやく日米合同委員会にて、殺人・強姦の被疑者の起訴前身柄引き渡し等に「好意的考慮を払う」ことが合意された。しかし、この合意も、引き渡しの法的義務を課すものではなく、また、強盗は対象になっていない。重大な犯罪を行っても手続き面で身内にかばってもらえる、そんな気の緩みが規律の乱れを生んでいるのではないか、との不信にも、一定の理由があろう。

 日米地位協定は条約の一種だから、外交権を持つ内閣がアメリカとの交渉に成功すれば、協定内容を改正できる。5月28日・29日の共同通信世論調査では、71%が協定改正を進めるべきだとしている。世論の支えは十分にあるのだから、あとは、内閣のやる気次第だろう。

 これまでにも、米軍人・軍属による事件は多数発生しており、その都度、県議会も抗議の意思を表明してきた。しかし、海兵隊全面撤退を求めるまでの意見書が可決されたのは、初めてのことだと言う。政府は、その重みを今一度考えねばならない。(首都大学東京教授、憲法学者)