右手に中国を意識した「防衛力増強」の旗。左手に戦争の記憶にかかわる「歴史認識」の旗。安倍晋三首相の外交・安保政策を戯画的に表現すれば、こんなふうになるだろうか。この二つの旗は密接に関連している。

 戦後50年の節目の年に発表された談話で村山富市首相は、植民地支配と侵略によってアジアの人びとに多大な損害と苦痛を与えたことを認め、「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明した。

 その後の内閣は村山談話を踏襲しているが、安倍首相は、このような歴史認識に疑問を呈し続けてきた。

 昨年4月22日の参院予算委員会で「安倍内閣として(村山談話を)そのまま継承しているわけではない」と語った。翌日の参院予算委員会では「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べ、侵略という言葉を使うことを疑問視した。

 8月15日の全国戦没者追悼式では、歴代の首相が言及してきたアジア諸国に対する加害責任には触れなかった。例年、用いてきた「不戦の誓い」の文言もあえて削除した。そして第2次安倍政権発足からちょうど1年にあたる昨年12月26日。安倍首相はA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社を電撃的に参拝した。日本外交が受けたダメージは計り知れない。

 外国の横やりが問題なのではない。問われなければならないのは、戦後日本が戦争責任について総括してこなかったことである。

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 「歴史認識」の修正を図りつつ、同時に「防衛力強化」を並行して進める。終極的な目標は憲法改正-これまでどの政権もやったことのない急激な政策転換は、戦争責任の所在をあいまいにし、東アジアの緊張を一段と高めることになるだろう。

 実際、安倍首相の靖国参拝に対し、中国、韓国が反発し、同盟国である米国やEU、ロシアなどからも一斉に批判の声が上がった。安倍首相の挑発的な言動は、第2次世界大戦後に連合国によって形成された戦後秩序への「右からの挑戦」だと受け止められているのである。

 昨年12月に公表した「国家安全保障戦略」「新防衛大綱」「中期防衛力整備計画(中期防)」には、憲法第9条を前提にした戦後の平和主義を骨抜きにするような施策が並ぶ。「戦争は起こらない」と決めつけるのは、かえって危険だ。事態はそこまで悪化している。

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 国家安全保障戦略は、中国の領海侵犯や防空識別圏設定を「力による現状変更の試み」だと批判し、対決色を前面に打ち出した。

 中国の軍備増強、海洋進出によって安全保障環境が急速に悪化しつつある、との認識が背景にある。

 だが、安倍政権の外交・安保政策は、防衛力増強による軍事バランスの回復のみを重視しているようにみえる。対話を基調とした外交努力によってこの地域に安定した地域秩序を形成するという意思が感じられない。