安倍政権が昨年12月に閣議決定した防衛大綱は、尖閣諸島をめぐる中国との対立長期化を想定し、南西地域の防衛体制強化を打ち出した。

 航空自衛隊那覇基地への戦闘機部隊増設や早期警戒機の飛行隊の新設のほか、与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備も明記した。

 政府には「尖閣有事」への対応も念頭にある。地元はどう受け止めているのだろうか。

 県内有権者を対象にした昨年12月の本社世論調査で、尖閣問題が日中の軍事的衝突につながる不安は「大いに感じる」「ある程度感じる」を合わせると、84%に上った。

 一方で、中国の軍事台頭をにらみ、政府が検討する与那国など先島諸島への自衛隊配備について「賛成」は41%、「反対」が39%と拮抗(きっこう)し、軍事力による対応に慎重な世論が浮き彫りになった。

 先島への自衛隊配備の賛否は地域別では「石垣市・八重山郡・宮古島市・宮古郡」で「反対」が53%と最も多く、「賛成」は33%だった。

 尖閣問題の先鋭化によって軍事的緊張の最前線に置かれるのが、この先島地域だ。

 政府の「国防政策」が、必ずしも地元の当事者には現実的な平和維持政策とは認識されていない事実が浮かんだ。

 尖閣問題を「国と国の領土問題」という枠組みのみで捉えれば、「譲れない国益」に縛られたナショナリズムの喚起につながり、政治的な決着は遠のくばかりだ。結果として軍事懸念は高まる。

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 国益最優先の風潮が全国世論を占めると、地元の生活者の声は容易にかき消される。

 日台漁業協定締結は、尖閣領有権をめぐって中国をけん制し「日台共闘」を模索するのが日本政府の眼目だった。が、台湾側に大幅譲歩した協定内容には沖縄漁民から「死活問題」との声が上がった。

 協定発効後は台湾漁船の拿捕(だほ)が相次ぎ、台湾側の不満も高まった。日台双方の漁業者の感情はこじれ、操業ルールの合意にも至っていない。

 尖閣海域はかつて沖縄と台湾の漁民が魚を分け合う「生活圏」だった。

 沖縄の日本復帰前後までは、台湾漁船と洋上で酒を酌み交わしたり、漁具を分け合ったりして互いに助け合ってきた。

 「圧力に圧力で返すのではなく、国境の海で共生できる仕組みを築いてもらいたい」

 八重山漁民のこうした声こそ、現場のリアリティーを反映しているのではないか。

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 地域の漁業者の生活圏が、「領土問題」として大国間の駆け引きや国家戦略に組み込まれることで、軍事的な緊張がエスカレートしていく。これが現状ではないか。

 沖縄の軍事基地は中国のミサイルの射程に入っている。沖縄戦で県民は「軍隊が駐留することで戦闘に巻き込まれる」教訓を学んだ。ほんの70年足らず前のことだ。

 平和共存を旨とする生活圏という視点で尖閣問題にアプローチすれば、偏狭な領土ナショナリズムとは異なる彩りを帯びる。国防優先で生活が破壊されては元も子もない。