船の磁気コンパス(磁石のコンパス)を直す「コンパスアジャスタ」という専門職がある。全国で約130人、県内では上原伸浩さん(62)=宜野湾市愛知=ただ一人だ。ジャイロコンパスや衛星利用測位システム(GPS)での航海が主流だが、上原さんは「電源なしでも使える磁気コンパスの大切さを分かって」と訴えている。(国吉聡志)

「磁気コンパスは手入れが面倒だけど、航海には不可欠」と偏針儀を使ってコンパスの誤差を直す上原さん=2013年12月3日、宜野湾市愛知

 石垣市登野城生まれの上原さんは、沖縄水産高、県外の大学を経て航海士になり、世界の海を回った。愛媛県の海上技術短期大学校で航海学を教えていた2年前、座間味村を拠点に県内で活躍していたアジャスタの故・宮里清五郎さんから電話があった。「後継ぎがいない。海の安全のため、一肌脱いでほしい」。熱意に押され「身につけた航海学が沖縄の海の役に立てば」と上原さんは、アジャスタの資格を取り2012年、沖縄に帰った。

 磁気コンパスは、船内の鉄製品や磁場の影響を受けて狂ってくる。この誤差をアジャスタが、海図と天体などを見ながらずれを確認したり、偏針儀という道具を使って、北を指すように修正する。年に1度を目安に誤差を直す必要があるという。

 現在は常に真北を指すジャイロコンパスやGPSを使った航海が一般的だが、電源が失われると使えない。多くの船は磁気とジャイロを備えているが、磁気コンパスを軽視する声を上原さんは県内でよく聞くという。「もしも、船の電源が落ちたら、頼れるのは磁気だけ。機械に頼り切るのは危険」と指摘する。

 大型船は県外のドックで船を補修する時に、磁気コンパスも修正する。しかし県内で補修する漁船や1500トンクラスでコンパスの修正を依頼する船は多くないという。しかも、小さい船はレーダーなど高電圧の機械が狭い船内にひしめき、磁気コンパスが狂いやすい。「もしもの事態に備えて、県内の中小型船は、磁気コンパスをいま一度点検してほしい」と上原さんは呼び掛けている。