心臓外科手術と聞いて何を連想されますか? なんか死んじゃうかもしれない大きな手術! 大きな傷が胸にできる! なんて考えられる方も多いかと思われます。

 確かに心臓外科手術領域では、いまだに手術の成功率も低く、長期間入院が必要な大変な手術が存在するのも事実です。しかし、手術器具の発達や手術手技の改良によって手術の安全性は高まってきました。さらに時代の流れに伴ってQOL(生活の質)を重視した「低侵襲心臓手術(MICS)」という試みが近年なされています。

 「侵襲」とは、手術・けが・病気・検査などに伴う痛みや発熱、出血などのことです。ここでいう低侵襲心臓手術とは、可能な限り患者さまの負担が少ない手術方法であるのはもちろん、既存手術と同等かそれ以上の効果が得られなければなりません。

 通常の心臓手術では心臓前面に存在する胸骨を、全切開するものを部分切開のみで行ったり、胸骨を切開しないで違った経路で心臓に到達したり、はたまた手術の傷も通常の半分の“握り拳”程度で行いながら、今まで通りの手術の質が問われるのです。

 特に1990年代より欧米から始まった心臓弁膜症(大動脈弁・僧帽弁)に対する低侵襲心臓手術は、現在日本全国の多くの施設で順次導入されてきています。私も2011年から2年間のドイツ・デュッセルドルフ大学心臓外科への留学経験で、実際に多くの低侵襲心臓手術を執刀させてもらう機会を得て、患者さんの笑顔を直接肌で感じることができました。

 全国的にも新しい治療法であまり聞きなれない言葉だと思われますので、実際の低侵襲心臓手術の一例を紹介いたします。

 ある患者さんは以前より心臓弁膜症(大動脈弁閉鎖不全症)を指摘され循環器内科専門医にて経過観察中でしたが、悪化した大動脈弁を新しい人工の弁に替える大動脈弁置換術を行うこととなりました。患者本人および家族と相談し、通常は胸骨を全切開するものを3分の2程度の部分切開のみで手術を行いました。通常の半分の8センチの傷で手術は完遂し、手術時間の延長もなく無輸血にて終了、患者の創部痛などの訴えも認めず笑顔で経過されました。

 低侵襲心臓手術はまだまだ新しい手術法でこれからもさらなる発展・改良が必要ですが、今後新たな治療選択肢の一つとして大いに期待したいところです。 宗像宏(南部医療センター・こども医療センター)