地球は大きな磁石。人はその力を利用して七つの海を行き来するすべを身に付けた。羅針盤(磁気コンパス)の発明は車輪に続く革命なのだという

▼羅針盤の狂いを直す職人は、県内にただ1人しかいない。「もしも船の電源が落ちたら、頼れるのは磁気だけ」。上原伸浩さんの言葉から大航海時代へ思いをはせた(5日付本紙)

▼アミール・D・アクゼルさんは著書『羅針盤の謎』で、さまざまな角度から羅針盤の由来に迫る。客船の中で育ち幼いころから舵(かじ)を操った著者は、風向きと強さを読み、空を観測し、針の向きから進路を選び取る船乗りの技を敬意をもって紹介している

▼文献をひもとき、コンパスを中国からヨーロッパへ初めて持ち帰ったのはマルコ・ポーロとは別人だと説く。占いに使われた道具は、かの地で大航海時代を実現する計器へと変身しコロンブスやバスコ・ダ・ガマらの冒険を支えた

▼〈すると新たな光の一つの中心から声が聞こえ 私はそちらを振り返った まるで北極星の位置を指す針のように〉著者が引用したダンテの神曲の一節に、往時の人々が羅針盤へ込めた希望やロマンが見える気がする

▼新しい年の船出に自らのあるべき姿や、世界の進むべき道を考えたい。私たち一人一人の営みが、社会という海原を渡る航路を指し示すだろう。(具志堅学)