16日に名護市で演説した自民党の石破茂幹事長は、同市の地域振興に向けて、500億円規模の基金を立ち上げる意向を明らかにした。

 有力政治家が告示後になって巨額の予算を提示し、特定候補への投票を呼び掛ける。事実であれば、札束で有権者の頬を殴るような露骨な利益誘導だ。

 が、そもそも与党幹事長に予算配分の権限はない。国会や政府、省庁を飛び越えて、自民党幹事長が国の予算権限を全て取り仕切っているかのような物言いは言語道断だ。

 石破氏は演説後、記者団の質問に対して「一括交付金をベースに国、県、市が分担する形」に言及した。

 記者会見で問われた菅義偉官房長官は「資金の新設について、政府として答える立場にない」「それは県や関係者が調整を図って実現していくということ」と要領の得にくい回答に終始した。

 どうやら国として新たな予算の創設や上積みを企図するものではなさそうだ。演説を聴いた人々は、そう受け止めただろうか。中央政治家が権威を盾に、あたかも予算の大盤振る舞いを約束したかのような印象を与えたのではないか。選挙に勝つために、金権をアピールする姿は地元有権者にどう映るだろうか。

 名護市長選をめぐって石破氏は12日にも、「基地の場所は政府が決めるものだ」と発言し、物議を醸した。

 市長選の結果にかかわらず政府、自民党が米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設作業を推進する、との姿勢をアピールするものだ。

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 一方、菅官房長官は14日、名護市長選の結果に左右されることなく辺野古移設を「粛々と進めていきたい」との意向を示した。

 こうした政府、与党の対応は、同じ国策事業である核処理施設や原発の立地と比べても異様さが際立つ。

 高レベル放射性廃棄物最終処分場のケースでは、2007年1月に高知県東洋町が候補地選定に向けた文献調査に全国で初めて応募した。が、町民の反対で町長が辞職。出直し町長選で反対派が当選したため応募を撤回、候補地選定は振り出しに戻った。

 東北電力が新潟県に計画した巻原発計画は、1981年に国の電源開発基本計画に組み入れられた。が、96年に当選した町長が、全国初の住民投票を実施し建設反対が約61%に上ったことから、状況は一変。司法判断などを経て、2003年に東北電力は計画断念を発表した。

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 名護市辺野古での普天間代替施設建設事業は、1997年の市民投票で条件付きを合わせた反対票が52・8%と過半を占めた。

 前回市長選で「海にも陸にも新しい基地を造らせない」と唱える現市長が誕生しても移設計画は無くならず、政府は手続きを進めている。

 民主主義の原則に立つならば、地元市長が反対しても押し切るべきだ、という論理は成立し得ないはずだ。

 政府、与党の対応は、民主主義の手続きの正当性をゆがめる行為に自らが手を染めているのに等しい。