名護市長選は「えげつなさ」と「まっとうさ」の戦いだった。札びらをちらつかせて基地受け入れを迫る政府のえげつないやり方に対し、市民は「まっとうさ」を大切にする姿勢を変えなかった。弱い立場にある者の「まっとうさ」が沖縄のソフト・パワーだということを結果で示したのである。

 政府・自民党は、移設問題が争点化するのを避けるための理屈付けに腐心した。「基地の場所は政府が決めるものだ」という石破茂自民党幹事長の発言はその典型である。読売新聞は選挙後、署名入りの自社評論を掲げ、「地方選を悪用するな」と主張した。「地方の首長選で国政の課題を争点化することはなじまない」と評者は指摘する。

 国家の根幹にかかわる外交・安保は、高度な専門性を必要とする。だから政府に任せておくべきだ、との考えは確かに根強い。本土の保守系首長がしばしば、「外交・安保は国の専権事項」だと強調するのも同じ論理である。

 だが、一般論を持ち出して沖縄の基地問題を論じ、県内移設を正当化するのは、的外れで一面的だ。このような見解は、沖縄の戦中・戦後の歴史体験や、今も続く過重負担の現実、これからも半永久的に続くとみられる基地負担には何も触れていない。

 米軍基地の新設は、地方自治、人権、環境保全、子どもの教育など、あらゆる分野に深い影響を与える。市民の平和的生存権を脅かし、地域に分断と対立をもたらす問題が自治体の首長選の争点になるのは至極当然なことである。    ■    ■

 米国の国民は米国の国内法によって守られている。日本本土の住民の多くは基地の過重負担を免れている。住民の権利を守るはずの日本の国内法よりも地位協定が優先され、日常生活が脅かされているのは沖縄特有の現象だ。

 米軍用地収用特措法は、沖縄の未契約米軍用地問題に対処するために改正された。地主が契約を拒否しても土地を返してもらうことが事実上、できなくなった。

 米軍再編特措法は、米軍再編を推進するため、沖縄、神奈川などを想定して制定された。「基地受け入れを認めれば、お金をあげましょう。でも、認めなければあげないよ」という政策だ。

 石破幹事長は選挙中、移設推進候補を支援するため、財源のあいまいな500億円の基金創設を表明。現職の稲嶺進市長が再選したとたん、基金の話は消えてしまった。品格が疑われるようなえげつない話である。

    ■    ■

 政府は選挙後、地元の理解を得ながら粛々と進めていく、と語った。代替施設建設に向けた設計、生物調査を進めるため沖縄防衛局が入札を公告したのは選挙の2日後。言葉とは裏腹に、市民の切実な思いを逆なでしたのである。一事が万事こんな調子だ。

 日米両政府は、基地既得権を半永久的に維持するため、地方自治の健全な発展を阻害し、ずたずたにしている。

 普天間移設問題が名護市長選の争点になったのは、政府自身が市民をそこに追い込んだ結果である。