フィギュアスケート男子で金メダルを獲得した羽生結弦(はにゅう・ゆづる)選手の第一声は「スミマセン。悔しい」だった。19歳のニューヒーローの素直すぎるコメントだ

▼自著『蒼い炎』(扶桑社)に、世界ジュニアで優勝した時のことを書き留めている。「それほどうれしくなかった。みんなが失敗したから1位だった。一番かっこいいのは全員がパーフェクトで、その中で勝つこと。本当の1位の味を知りたい」

▼ソチ五輪のショートプログラムでは、歴代最高点を塗り替える完璧な演技で観客を圧倒。難しい技を一つ一つ優雅に、ダイナミックに決め、伸び盛りの勢いを見せつけた

▼メダルを懸けたフリーの戦いでは、眠い目をこすりながらテレビにくぎ付けになった人も多かっただろう。最初の大技、4回転ジャンプで転倒した時は、日本中から悲鳴が聞こえたかのよう。それでも後半はジャンプを次々と成功させ踏ん張った

▼仙台出身で、東日本大震災時にはスケート靴を履いたまま逃げ惑い、全国のリンクを転々とする試練を味わった。その羽生選手の頑張りが、被災した若い世代へ勇気を与えたと思う

▼「ベストではなかったが、優勝するには十分なもの」とたたえたのは名将オーサー・コーチ。日本のホープから世界のトップへ。「羽生時代」の始まりを感じさせた。(森田美奈子)