安倍政権が外交戦略の中心に据える日米基軸が揺らいでいる。安倍晋三首相の靖国神社参拝をめぐり、首相側近らが国内外に波紋を広げる「問題発言」を繰り返しているからだ。もはや「失言」というレベルではない。安倍政権の持つ歴史認識の「危うさ」が露呈していると言うほかない。

 オバマ政権は、首相が米政府の自制要請にもかかわらず靖国参拝を強行したことについて「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を出した。

 これに対し、首相の盟友とされる衛藤晟一首相補佐官が今月、動画サイトに投稿した国政報告で「むしろわれわれが失望だ」と米政府を批判した。衛藤氏はさらに「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか。声明は中国に対する言い訳にすぎない」などと対応を疑問視した。

 衛藤氏はその後、菅義偉官房長官の指示で発言を撤回した。菅氏は「首相の見解とは違う」と強調したが、内閣の一員である首相補佐官である。発言は「個人的見解」では済まされない。

 衛藤氏は、首相の参拝前に在日米国大使館に行き「できれば賛意を表明してもらいたいが、それが無理なら反対はしないでもらいたい」と伝えたという。

 首相の靖国参拝が、中国や韓国の反発を招くことは容易に想定できた。東アジアの安定を損なう事態を懸念する米国の出方を予想できなかったのなら、衛藤氏の首相補佐官の資質が疑われる。政府は進退は問わない意向だが、首相の明確な説明責任が求められよう。

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 これだけではない。自民党の荻生田光一総裁特別補佐は1月の党会合で、米政府の「失望」声明に対し「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない。民主党政権だから、オバマ大統領だから言っている」と批判した。

 首相の経済ブレーンを務める本田悦朗内閣官房参与が首相の靖国参拝について「誰かがやらなければならなかった。勇気を称賛する」と語ったとする記事を米紙ウォールストリート・ジャーナルが掲載した。同紙はさらに「本田氏はアベノミクスの背景にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない」とも指摘している。

 NHK経営委員の百田尚樹氏が、A級戦犯を裁いた東京裁判に疑問を呈し、南京大虐殺を否定した発言も米の不快感を招いている。首相につながる人脈から、このような発言が相次いでいるのはなぜか。首相自身の歴史認識が問われているのである。

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 オバマ大統領は、4月の訪日を機にぎくしゃくする日米関係を再構築したい考えだ。しかし、歴史認識をめぐる首相やその周辺の発言が、日米双方の溝を深めている。

 米紙ワシントン・ポストは首相の靖国参拝に伴い、日本がアジアで危機を引き起こす可能性に警鐘を鳴らす記事を掲載した。安倍政権が「1強」におごるような言動を繰り返せば、国際社会からの孤立を招きかねない。