ウクライナ南部にあるクリミア自治共和国をめぐり、ウクライナ情勢が緊迫化している。ロシア軍がクリミアを実効支配しているからだ。プーチン大統領は軍事介入を回避する考えを示しているが、武力行使を完全に否定しているわけではなく、大きな火種を抱えたままである。

 ウクライナのヤヌコビッチ政権は昨年11月、欧州連合(EU)との関係を強化する路線を凍結し、ロシアを重視する方向にかじを切った。これに反発した反政権デモが続き、治安部隊との衝突で多数の死者が出た。政権崩壊の直接のきっかけである。

 プーチン大統領はロシア系住民の保護を理由に挙げてロシア軍の投入を表明した。上院もこれに同意した。

 欧米は、ロシアがウクライナの主権と領土を侵害している、と批判を強めている。

 日本を含む先進7カ国(G7)はロシアを非難する共同声明を発表し、6月にソチで開かれる主要8カ国首脳会議(サミット)の準備会合を見合わせることを決めた。

 米国は、米国への渡航禁止や在米資産の凍結などの制裁を発動した。EUも新政権と協議を始めなければ、渡航禁止などの制裁を発動すると警告し足並みをそろえた。

 クリミアのロシア軍が、ウクライナの主権と領土を侵害しているのは間違いなく、ロシアの行動に正当性はない。これ以上、軍事的な危機を深めないためにもロシア軍は一刻も早く撤収し、国際監視団の下で、ウクライナ政権と直接対話を始めるべきだ。

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 懸念されるのは、親ロシアのクリミアで最高会議(議会)がロシア編入方針を決議し、政府による住民投票が16日に実施されることだ。

 ロシア下院は編入手続きを簡素化する法案を近く採択するとされ、住民投票をめぐる動きは、予断を許さない。

 これに対し、ウクライナ大統領代行のトゥルチノフ最高会議(議会)議長は住民投票の中止を命じる政令に署名した。ロシアとウクライナの摩擦は強まるばかりである。

 住民投票はロシアへの編入の是非を問うものだ。クリミアはロシア系住民が約6割を占め、編入方針が追認されるのは確実とみられる。

 ただ、ウクライナの憲法には、いかなる領土の変更もウクライナ全体の国民投票で決めなければならないと明確に規定されている。しかもロシア軍が実効支配する中での住民投票である。住民投票の結果が、新たな火種になる可能性のほうが高い。

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 ソチではパラリンピックが開幕した。開会式ではボイコットの可能性に言及していたウクライナが選手1人だけの入場行進で、危機的状況を訴えているように見えた。

 障がい者のスポーツの祭典がソチで開かれる一方で、同じ黒海沿岸のクリミアでは軍事衝突の危険性が消えない。住民投票はパラリンピックの閉幕日で、混乱を避けると同時に早急に実施したいプーチン政権の意向とみられる。

 ロシアは再び「冷戦時代」に逆戻りさせるような軍事衝突を起こしてはならない。国際社会への責務である。