野本三吉のペンネームで知られる沖縄大学の加藤彰彦学長が先月下旬、最終講義をした。健康上の理由で任期半ばの退職となる

 ▼教え子や教職員だけでなく学外からも人柄を慕う受講者が多く詰め掛けた。福祉や子どもを取り巻く現場を歩き、出会いを重ね、関係者をつなぐネットワークづくりに奔走した沖縄での12年間。この日の大教室の熱気が、刻んだ足跡の大きさを雄弁に物語っていた

 ▼大学教授、ましてや学長の肩書は最後まで似合わなかったが、在職中、児童養護施設出身者や里親のもとで暮らす学生の授業料免除制度などを創設した。学費の問題で進学を諦める子が多い沖縄の現状に心を痛めていた

 ▼取材に訪れると、いつも話が本題からそれて雑談になった。相手の言葉に耳を傾け、共感し、まるごと包み込んでいくような存在感があった

 ▼「誰かと出会って交流することで人は変化する。影響され、相手の存在が自分の中に入ってくる。そのうち、どこまでが元の自分でどこからが相手の影響か分からなくなっていく」。最終講義は加藤さんの生き方そのものを映し出した

 ▼「周りにいる全ての人がぼくの中で生きているし、ぼく自身もみんなの中で生きている。人っていうのは人間関係の総和なんだ」。関わった人々の中で思いはきっと受け継がれていく。(田嶋正雄)