【竹富】保守色の強い中学公民教科書を懸念し、竹富町教育委員会が「東京書籍版」を選択して2年半。文部科学省は14日、全国初となる市町村への「是正要求」で使用教科書の変更を迫った。学校や家庭、地域が一体となって教育を支える小さな島への国の異例の指導。住民からは「政治介入だ」と批判の声が上がった。

文科省から是正要求の用紙が届き、厳しい表情を浮かべる慶田盛安三竹富町教育長=同町教育委員会

 町教育委員会には同日午後、文科省から是正要求の電子メールが届いた。話し合いでの解決を目指していた慶田盛安三教育長は「一方的に『違法』と言うが、安倍政権に変わり、法解釈が変わった」と指摘する。

 民主党政権時の中川正春文科相は国会答弁で町教委の主張を一定認めていたが、自民党政権は「竹富町は違法」との見解を繰り返す。慶田盛教育長は「教育は中立性を保つべきだ。政治介入は子どもや教育現場の混乱を招く」と訴えた。

 町内の全中学校は次年度も東京書籍版を使用する方針で、計46冊を取次店に発注している。町内のある中学校校長は「すでに次年度の年間指導計画を立てている。今から教科書変更はあり得ない」と語り、「子どもたちに聞かれても、『私たちは間違ったことはしていない』と堂々と説明する」と毅然(きぜん)と語った。

 竹富町では全校区に公民館長が委員長を務める「学力向上推進委員会」があり、地域と家庭が放課後の学習を支える環境が整っている。竹富島の上勢頭芳徳前公民館長は「小さく貧しい島々から立派に育ってほしいと明治期から地域挙げて教育を支えてきた。言いがかりをつける国の強引なやり方は竹富にはふさわしくない」と怒る。

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 県教育庁に文科省から「是正要求」のメールが届いたのは午前11時ごろ。諸見里明県教育長は「第一に子どもたちの視点に立って、3市町の協議で解決すべき」と県教委の立場を説明。「19日の県教委定例会で対応を協議したい」と話した。

専門家ら「国策の注入」

 元高校教員で琉球・沖縄史教育に詳しい新城俊昭・沖縄大学客員教授(63)は文部科学省による竹富町教育委員会への是正要求を「国家権力による教育への介入。国策を子どもに注入するのは、あってはならない行為だ」と批判。「教科書は子どもを一番よく理解している現場の教師か学校が選ぶべきだ。どの教科書にも良しあしがあり、足りない点を補うのが本来の教育の姿」と語る。

 育鵬社版の公民教科書を精査した、おきなわ教育支援ネットワークの中村英吉事務局長(70)は「現憲法の価値観を覆す記述ばかりで、安倍政権の本音を代弁している。国家のために個人の権利を制限して構わないという書きぶりだ」と問題視する。「自衛隊の先島配備を進めるため、軍隊に親近感を持たせる狙いが透けて見える」と批判した。

 沖教組の山本隆司委員長は「国が市町村に直接是正要求するには、『緊急性』が必要。竹富の現場ではなく、年度を越えてはメンツがつぶれるという大臣の緊急性があるのだろう」と皮肉る。一方で、「文科省対竹富町という構図が鮮明になった。安倍政権の『教育改革』暴走のシンボルとして、竹富支援を全国に呼び掛けていく」と語った。

元文科相「国が間違い」

 元文部科学相で、民主党幹事長代行の中川正春衆院議員は14日、文科省による是正要求を「国が教科書選定を押し付けることは地方自治の本旨からいって間違っている」と批判した。党務で訪れた那覇市内で本紙の取材に答えた。

 教科書採択の在り方について、「(採択地区協議会で複数の教育委員会が)調査、研究するのはいいが、最終的にはそれぞれの教委が決定するのが正しい」との考えを示した。

 中川氏は八重山地区の教科書採択問題渦中の2011年9月に文科相に就任し、4カ月余り務めた。問題がいまだ解決していないことに「責任を感じている」と語った。

 協議会の採択に強制力を持たせる教科書無償措置法の改正案には「政府が出してくれば修正したい」と話した。採択地区の構成要件を現行の「市か郡」から、町村単独でもできるように「市町村」に変更することが念頭にあるとみられる。

 中川氏は文科相在任中も「地方教育行政法にある教育委員会の採択権を斟酌(しんしゃく)すると、強制的に育鵬社版を使えというわけにはいかない」と語っていた。