果たしてこれが、組織の独立性を厳格に保った上での判断なのか。

 原子力規制委員会は、原発再稼働の条件となる審査で九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の審査を優先して進めることを決めた。今後、手続きが順調に進めば、今夏にも再稼働する可能性がある。

 規制委は、安全審査の申請があった10原発17基のうち、川内原発を含む6原発10基の先行審査を進めていたが、先月、6原発からさらに優先的に審査を進める原発を絞り込む方針を打ち出していた。

 田中俊一委員長は「最も基本となる地震や津波など立地の問題についてクリアできた」と、川内原発の優先審査の理由を述べた。しかし、川内原発近くに活断層が存在する可能性が指摘されるなど、安全性を懸念する声が上がっている。

 なぜ、再稼働を加速させるのか。昨年9月以来続く稼働原発ゼロのままで、電力需要期の夏を迎えることを懸念する安倍政権や産業界の思惑がちらつく。

 過酷事故や地震、津波対策を強化した新規制基準に基づく規制委の審査が長引いていることに対する不満も、さまざまな圧力として表出した。

 茂木敏充経済産業相は先月、「原発によっては申請から相当な時間がたっている」と述べ、規制委に審査の見通しを求める発言をした。自民党の町村信孝元外相は、審査に関し「いたずらに時間をかけていいのか。甚だ疑問を持っている」と述べた。

 規制委は、安倍政権などへの配慮は否定するが、優先審査の決定に至る過程を丁寧に国民に説明すべきだ。

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 安倍晋三首相は参院予算委員会で「原子力規制委員会が厳しい基準で安全と認めたものは、地元の理解をいただいた上で再稼働を進めていく」と述べた。規制委の審査適合判断を「お墨付き」にして順次、再稼働を進める方針だ。しかし、規制委の審査に合格しても、それで住民の安全が保証されるわけではない。

 規制基準に避難計画は入っておらず、自治体の住民避難計画は遅れている。規制委の田中委員長は「原発事故時の避難計画に住民理解が得られなければ再稼働は難しい」との認識を示している。

 東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、住民避難計画の策定が求められる「原子力災害対策重点区域」は、原発の半径10キロ圏から30キロ圏に拡大された。だが、区域に入る135市町村のうち、計画を策定したのは4割強の58市町村にとどまっているのだ。

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 福島第1原発の事故収束の見通しが立たないまま、原発を再稼働させることへの不安は大きい。共同通信社の調査では、全国の原発の半径30キロ圏内の21道府県と135市町村の計156自治体のうち、審査を終えれば原発の再稼働を「容認する」と答えたのは条件付きを含めても約2割の37自治体にすぎなかった。

 エネルギー基本計画案に原発再稼働を進める方針を明記した安倍政権だが、根強い「脱原発」の世論を無視はできないはずだ。拙速な再稼働は、混乱を招くだけだ。