引っ越し業者のせわしない姿が目につくようになった。忙しくて帰れない日が続くと、うれしい悲鳴も聞いた

▼都内で年に約80万人ある移動がこの時期に集中する上、消費増税も拍車をかけている。防寒着が手放せない身をはた目に、半袖で額に汗した機敏な動きがすがすがしい

▼かたや那覇空港では、進学や就・転職で旅立つ人、見送る人がそれぞれ、思いを胸に手を振り合っていることだろう。〈さまざまの事おもひ出す桜かな〉(松尾芭蕉)

▼過日の上京時、母親が今生の別れにならんかとばかりに心配していたと、父親から聞いた。「何をそんなに大げさに」と、達者であることをいいことについ憎まれ口をたたいてしまう息子だが、いくつになっても子は子、親は親なんだなと、妙に思い入ったものだ

▼〈吉野山花の散りにし木の下に留めし心はわれを待つらん〉。芭蕉があこがれたといわれる西行法師の詩を読んだ。山桜を、花の奈良・吉野山を愛した西行。心は愛したものや人のもとにとどまり、帰り来るのを待ち続けているとの意だそうだ

▼空港で聞かれる「さようなら」の語源には、どうしても別れなければならないなら、もある。旅立つ皆さん、さようであるなら、頑張ってみよう。引っ越し業者は、あなたの希望や可能性も担ぎ、汗を流しているから。(宮城栄作)