「捜査機関にねつ造された疑いのある証拠によって有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で拘束されてきた」

 「これ以上拘置するのは耐え難いほど正義に反する状況にある」

 裁判所がここまで踏み込んで問題点を指摘するのは異例である。裁判官の憤りや怒りがひしひしと伝わってくる表現だ。

 最高裁で死刑が確定し、裁判のやり直しを求める再審請求も最高裁で棄却され、死刑台と隣り合わせの日々を送ってきた死刑囚が、2度目の再審請求でようやく裁判のやり直しが認められた。

 再審開始の決定と同時に、拘置を停止するという前例のない決定である。

 静岡県で1966年、みそ製造会社の専務一家4人が放火・殺害された事件で、静岡地裁は27日、死刑が確定した元プロボクサー・袴田巌さん(78)の再審開始を認める決定をした。

 袴田さんはその日、逮捕から48年ぶりに、東京拘置所から釈放された。

 事実上の無罪認定と言っていい内容である。

 検察側は再審開始決定の取り消しを求め、東京高裁に即時抗告する方針だという。

 仮に東京高裁が再審開始の決定を維持した場合でも、検察側には最高裁への特別抗告の道が残されている。

 だが、袴田さんの置かれた肉体的、精神的状態を考えれば、裁判をやり直すかどうかでこれ以上、時間をかけるべきではない。

 早急に再審裁判を始めることが、取り得る最善の道だ。

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 静岡地裁の画期的な決定は、どのような背景の下で生まれたのか。

 第一に挙げなければならないのは、DNA鑑定である。 犯行時に着けていたとされる「5点の衣類」について、最新技術によるDNA鑑定を実施したところ、5点の衣類の血痕は、袴田さんのものでも、被害者4人のものでもない可能性が「相当程度認められる」と指摘する。

 その上で地裁の決定は、最重要証拠であるはずの「5点の衣類」が、「後日ねつ造されたものであったとの疑いを生じさせる」と、捜査機関に対する強い疑念を表明している。

 刑事訴訟法には証拠開示の明文規定がない。基本的に裁判官の裁量に任されているが、裁判員制度がスタートし、それに合わせて「公判前整理手続き」が導入されたことで、弁護側は証拠の開示を検察側に求めることができるようになった。

 刑事司法を取り巻くこうした変化が、再審開始決定につながったのである。

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 えん罪であるにもかかわらず、死刑が執行されるようなことになれば、それは「国家による殺人行為」になる。

 取り返しのつかない「えん罪死刑」を生まないために、今後、どのような司法の仕組みをつくるべきか。裁判官、検事は今回の再審開始決定を重大な問題提起として真摯に受け止めてもらいたい。 

 組織の立場、プライドという低次元のこだわりをもつべきではない。