学校現場で領土教育を進めることには危うさがつきまとう。直接、外交にからむ話なので他の教材以上に冷静さと工夫が必要である。

 政府の公式見解だけを教えると、相手がどのような理由で領有権を主張しているのか歴史的背景が分からず、敵対心を植え付けるだけの結果になりかねない。

 来年4月から使われる小学校用教科書の検定結果が公表された。社会科の検定を申請した4社すべてが、5年生用か6年生用の教科書で尖閣諸島や竹島(島根県)について取り上げている。

 「尖閣諸島は日本の領土」だという表現だけでなく、今回から「日本固有の領土」という記述も登場した。領土教育の強化をめざす安倍政権の意向を踏まえた新たな表現である。

 尖閣諸島や竹島、択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島の北方四島はいずれも「わが国固有の領土」だというのが政府の公式見解である。「固有の」とはどういう意味か。

 政府によると、歴史的に「一度も他の国の領土となったことがない領土」だという。

 単に「我が国の領土」という場合と、「我が国固有の領土」という場合では、ニュアンスがだいぶ異なる。

 国境線がたびたび変更されたヨーロッパや、先住民の住む土地に移住して新たな国をつくったアメリカなどにはそもそも、「固有の領土」にあたる言葉がない、という。

 沖縄は日本の「固有の領土」といえるのだろうか。そんな問いかけも、沖縄では、間欠泉のように噴き出す。

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 小学校5年の教科書には、竹島について「日本固有の領土」であるにもかかわらず、「韓国が不法に占領」している、との記述が見られる。強い口調である。違法性の度合いが大きい、との印象を読む人に与える。

 教育出版の5年用教科書はかなり刺激的だ。尖閣諸島を日本の領土と指摘したうえで、「その周りの日本の海では、中国の船が侵入し、日本の同意を得ることなく海洋調査を行ったり、違法に漁業を行ったりするなどの行為を繰り返しています」とかなり踏み込んでいる。

 中国の海洋進出に警戒心を抱く国民は、この記述を違和感なく受け止めるはずである。この文章を中国の人たちが読んだとき、どう反応するだろうか。

 尖閣の領有権をめぐって中国には別の主張が存在する。そのことを前提にしないで領土教育を進めると、偏狭な愛国教育に陥り、地域の緊張を高めかねない。

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 文部科学省は今年1月、教科書編集の指針となる中学校と高校の学習指導要領解説書を改定し、尖閣諸島と竹島を「我が国固有の領土」と明記することを決めた。

 領土教育はどうあるべきか。その議論が決定的に欠けているのではないだろうか。

 中国、韓国にも言えることだが、領土教育に独りよがりは禁物である。相手側との対話を取り入れ、コミュニケーション力を培い、国を超えた横のつながりを生み出すような教育であってほしい。