美容師の福田隆俊さん(54)は毎月1回、自宅のある茨城県から高速バスで約1時間、羽田空港で飛行機に乗り3時間、那覇で1泊した後、フェリーに揺られ2時間かけて、渡名喜島に通っている

▼住民400人余りの離島の村に、たった1軒しかない美容室へと向かうためだ。2009年の春から、月に10日ほど、台風がこようが、何があろうが、ハサミを握る

▼島には長い間、美容室がなかった。那覇へ行くついでがある人はいいが、お年寄りや子どもたちはそうもいかず、困っていた。「そのことが気になって」、古い民家を改装し、シャンプー台と椅子、鏡をそろえた

▼「向こうでは上手に切って当たり前。感謝されることはない。ここでは手を握って、ありがとう、助かっているよ、また来てねと言われる。初めての経験だった」

▼福田さんの店に集う人々を収めた写真集『島の美容室』(福岡耕造著、ボーダーインク)が出版された。パーマをかけながらおどける女性、真っ黒に日焼けした男性は髭(ひげ)をそってもらい満足そう。外出が困難なお年寄りの家へ出向き庭先でカットをする光景は特に印象的で、おばあちゃんのリラックスした顔がいい

▼交通費を差し引くともうけはないという。それでも茨城と渡名喜の店を往復し続ける「空飛ぶ美容師」の心意気に頭が下がる。(森田美奈子)