夜のネオン街を歩く「流し」として全国を巡り、ふるさとの悲惨な過去を歌い継ぐ演歌歌手がいる。宮古島出身のうえち雄大さん(62)=浦添市。理不尽な悪税「人頭税」に苦しめられた先祖の無念を歌に乗せ、14日からは福岡・博多の繁華街でマイクを握る。(矢島大輔)

「人頭税を知っていますか」。飛び込みで入ったスナックで「島の夜明け」を熱唱するうえち雄大さん=那覇市

 「1曲歌わせていただけませんか」

 7日夜、那覇市の若狭通り。スーツ姿のうえちさんはカラオケ設置の飲食店のドアをたたいて回った。昨年から配信されている「島の夜明け~宮古島人頭税物語」を歌うためだ。太い眉毛と強い目力。哀調を帯びた歌声が薄暗い店内に響く。 

悲しい歴史に 終止符うとう 胸を張って
待ちわびていた 道草のように 踏みつけられて

 歌の合間のせりふで、1903年まで266年にわたって課せられた過酷な「人頭税」で宮古島の農民たちが自殺し、女性は身売りをした哀史を伝える。「これは実話ですか」と、店内にいた若い女性が驚いた。

「語り部が必要」

 うえちさんは18歳の時、銀幕スターに憧れて上京。仮面ライダーの敵役などを演じたが、きついなまりに悩み、役者としては大成しなかった。借金を背負っていた34歳のころ、兵庫県の寺で修行して身につけた「托鉢(たくはつ)」を応用し、飛び込みで歌う「托鉢演歌」に目覚めた。

 36歳の時、故郷の人頭税の歴史を初めて知った。人頭税廃止運動の劇の上演に当たり、主催者が、日本政府に陳情に赴いた中村十作役をオファーしてきたのだ。台本を読み、うえちさんは涙が止まらなかった。「これまで知らなかった自分が恥ずかしい。親も学校も教えてくれなかった。二度と同じことを繰り返さないため、語り部が必要だ」

基地問題と酷似

 人頭税廃止から100年の2003年に「中村十作」を発売。昨年6月には続編の「島の夜明け」をリリースし、全国各地を巡る。自ら作詞した曲中のせりふに、こんなくだりがある。

 もはや沖縄県知事ではらちがあきません どんなに島役所に人頭税を軽くして下さる様に御願いしても 日本政府からの許可がなければ出来ないの一点張り これでは私ら農民はいつまでたっても人間らしい暮らしが出来ません

 当時の薩摩藩からの圧力に耐えかね、琉球王国は宮古・八重山の先島諸島に人頭税を課したとされる。うえちさんは現在の米軍基地問題の構図とそっくりだと言う。「米国からの圧力に抗せず、沖縄に米軍基地を押しつける今の日本の姿じゃないか」

 縁もゆかりもない土地を巡る托鉢演歌道は楽ではない。地元の沖縄でさえ、10軒を回って歌わせてくれるのは1、2軒。酔客に罵倒され、酒をかけられ、殴られることさえある。うえちさんはそれでも、「人頭税を知っていますか」と問い掛け続ける。

 [ことば]人頭税 薩摩に侵略された琉球王国が財政に窮し、1637年から宮古、八重山両諸島に限り、15歳以上50歳未満の男女に課した重税。特に宮古は河川が少なく、台風が多いことから農作に不向きで、納税者の人数を減らすため子どもの圧殺や堕胎を強いられたと伝わる。