出張などで東京や大阪に行くと、電車内で読書をする人がほとんどいなくなったことに気付く。驚くほど多くの人が手元のスマートフォンに目を落とし、忙しく指を動かしている

 ▼県内でもバスやモノレール、赤信号などを待つ間、寸暇を惜しむようにスマホに触る人が増えた。若者グループが全員無言で各自の画面に見入る姿も珍しくない

 ▼思い出すのはドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの「モモ」に登場する「灰色の男たち」。時間を無駄遣いしていませんか、もっと効率よく使いましょう、とささやき掛け、人々が物思いにふけったり、本を読んだり、友達に会って話したりする「無駄」な時間を奪っていく

 ▼10代で初めて読んだ時はよくわからなかった。しかし大人になり、何かに追いたてられるような時代の中で「時間泥棒」の物語は年々、痛切な響きを増している

 ▼無駄な時間を省き、効率的な生活をするようになった人々はなぜか落ち着きをなくし、怒りっぽくなっていく。40年以上も前に書かれたSF的な童話に今、現実が近づいていくようで心配になる

 ▼何もせず、ただボーッとするひとときを大切にしたい。家族や友達が語る他愛のない話に聞き入りたい。それらは決して時間の浪費ではない。時にはスマホを置いて、緩やかな時の流れを楽しみたい。(田嶋正雄)