認知症の介護現場に目をつぶり、介護家族を苦境に追いやりかねない。

 愛知県大府(おおぶ)市で2007年12月、徘徊(はいかい)症状がある認知症の91歳男性がJR東海の電車にはねられ死亡した。この事故をめぐり、JR東海が遺族に振り替え輸送代などの損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は「見守りを怠った」などとして、男性の妻(91)の責任を認定し359万円の支払いを命じた。

 一審名古屋地裁では、遠くで別居する長男(63)の監督責任も認め、計720万円の支払いを命じていた。高裁判決は監督責任から長男を除いたものの介護家族の責任を問うたことに変わりはない。

 死亡した男性は認知症で「要介護4」、妻も「要介護1」と認定されていた。妻がまどろんでいるすきに男性は外出していた。判決は「男性が通常通っていた事務所入り口のセンサーを作動させなかった」と妻を非難したが、とても納得できるものではない。

 認知症の介護で24時間片時も目を離さず見守るのは不可能だ。そうするには部屋に閉じ込めるしかない。介護施設でも責任を恐れ、同じ措置をとるようになるだろう。

 国の「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」は、施設から自宅を中心とする地域の中で生活することへの転換を目指している。介護家族を萎縮させるような判決は国の方針にも反する。

 判決はJR東海に対しても監視体制が十分でホームの扉を施錠していれば事故が防げたと推認されると指摘した。

 だが家族やJRだけの責任負担にしないためにも賠償制度の仕組みづくりが必要だ。

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 認知症は誰でもなる可能性がある。これからもさらに増加することが確実であることを考えると、決して人ごとではないからである。

 厚生労働省は、65歳以上の認知症高齢者は12年時点で、約462万人と推計している。予備軍の軽度認知障害は約400万人に達し、それを含めると、計約862万人に上る。65歳以上の実に4人に1人が該当する「認知症時代」が到来しているといっても過言でない。

 認知症徘徊に関し、ショッキングなデータがある。警察庁によると、認知症が原因で行方不明になったとして12年に9607人の届け出があった。沖縄県警にも63人。12年中に確認できた人は、それ以前から行方不明になった人を含め9478人。このうち359人は死亡していた。

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 国内でも地域ぐるみで認知症対策に取り組んでいる自治体があるが、NHKテレビで「認知症に優しい町」宣言をしたベルギーの地域が紹介されていたことを思い出す。住み慣れた自宅で暮らすことを前提に、NPOが中心となって市役所、警察、病院、商店街などに呼び掛け、緊密なネットワークをつくる。行方が分からなくなった場合でも情報を共有し、いち早く発見できるシステムを構築していた。

 認知症の高齢者が人間らしい生活を維持するために地域全体がどう向き合うか。ベルギーの事例は多くのヒントを与えるのではないだろうか。