「今の福島に住んではいけない」。故郷を愛しているはずの福島県双葉町の前町長、井戸川克隆さんは、どんな思いで発言したのだろうか

▼30年連載が続く人気漫画「美味しんぼ」の福島第1原発事故をめぐる表現が波紋を広げている。主人公が原発訪問後、鼻血を出す描写に続いて、井戸川さんが「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と明かす場面などがあるからだ

▼これに地元の福島県や双葉町だけでなく、環境相らが「風評被害を助長する」などと抗議した。掲載した小学館側は鼻血と放射線の因果関係を断定しているものではないとの見解を示し、19日発売号で特集記事を掲載する

▼事故後、沖縄へ避難してきた女性も鼻血が出たと訴え、放射線を疑っていた。原因は置いても、こうした症状の訴えはある。放射線医学の専門家は、関連性を「科学的にあり得ない」と否定している

▼しかし、東京にいる為政者たちがこぞって批判するほどに、放射線への不安を抱えながら地元にとどまり、日々子育てに懸命な父母はどんな思いでいるのだろうか、と胸がふさがる

▼双葉町は、今なお7千人が故郷を離れたままだ。町長だった人が住めないと公言する現実はあまりに悲しい。原発事故の一番の被害者である地元の人たちを、外側から騒動に巻き込んでいるように思えてならない。(与那嶺一枝)