特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を許さない対策法が今月3日施行されたのを前に、行政、司法が対策法を踏まえヘイトデモを認めない判断を下すようになった。

 川崎市は5月30日、ヘイトスピーチを繰り返していた団体に川崎区の公園2カ所の使用を不許可にした。同区は在日コリアンが多く居住する。

 2013年以降、この団体によるデモやヘイトスピーチは13回。市は「差別的言動は許されない」とする対策法を根拠に不許可とした。

 今月2日には、在日コリアンの男性が理事長を務める川崎市の社会福祉法人が同じ団体に対しヘイトデモの禁止を求める仮処分を申し立て、横浜地裁川崎支部は「違法性は顕著で、憲法が保障する表現の自由の範囲外」と事務所から半径500メートル以内でのデモの禁止を命じる決定をした。

 全国初となる行政、司法の判断は対策法の後ろ盾を得たことが大きい。根絶に向けた一歩と評価したい。

 一方、この団体は別の区の公園に場所を変更し5日にデモを計画。警察は要件を満たしているとして道路使用を許可した。対策法には禁止規定や罰則がない。正当なデモなど「表現の自由」を公権力が規制する恐れがあるからだ。

 団体のデモ隊約20人が反対のため集まった数百人ともみ合いになり、団体がデモの中止に追い込まれた。

 警察庁も対策法施行に合わせ全国の警察本部にデモで違法行為を認知した際は厳正に対処するよう通達を出した。

 「死ね、殺せ」「ゴキブリ」など人間の尊厳を傷付けるヘイトスピーチは、明らかに表現の自由を逸脱している。

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 対策法は「差別意識を助長するのを目的に、生命や身体などに危害を加える旨を告知したり、著しく侮蔑したりすることを差別的言動」と定義。こうした行為は「許されない」と明記している。その対象となるのは「適法に日本に居住する日本以外の出身者や子孫」である。

 与党が保護対象を「適法に日本に居住する日本以外の出身者」としたたため野党が不法滞在の外国人やアイヌ民族について「差別的言動が野放しになる」と批判。このため与野党は保護対象以外なら「いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤り」と明示し、「人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処する」との付帯決議を可決した。

 アイヌ民族に限らず、差別的言動があってはならないのは当然である。今後も注視しなければならない。

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 マイノリティーを狙い撃ちにするヘイトスピーチを根絶するには言葉の暴力と差別を絶対に許さないとの認識を社会全体が共有しなければならない。対策法が国や自治体に対し相談体制の整備や教育、啓発活動の充実を求めているのはこのためだ。

 川崎市で5日、デモ中止を求めた在日コリアンの親子は「共に生きよう」とプラカードで呼び掛けた。差別のない「多文化共生社会」をつくるためには一人一人の人権意識を高めなければならない。