北朝鮮がこれまで「解決済み」と主張し、進展が見られなかった日本人拉致問題が、やっと動きだすことになった。一人でも多くの拉致被害者の帰国が実現することを望みたい。

 日本と北朝鮮がスウェーデンで行った外務省局長級の政府間協議で、北朝鮮側が特定失踪者を含む日本人拉致被害者に関する包括的な全面調査を行うことで合意した。

 合意によると、北朝鮮側が全ての機関に対し調査することができる特別の権限を持つ調査委員会を設置し、生存する被害者が発見された場合、日本に帰国させる方向で必要な措置を講じる-という。

 今回の調査対象は、横田めぐみさん=失踪当時(13)=ら政府認定の拉致被害者12人に加え、拉致の可能性を否定できない特定失踪者も数百人含まれており、政府が把握していない被害者の存在が判明する可能性もある。

 しかし、拉致問題に関する北朝鮮のこれまでの姿勢は、不誠実なものであった。

 2002年9月の日朝首脳会談で北朝鮮は初めて拉致を認め「8人死亡」としたが、死因は自殺や交通事故などほとんどが不自然なものだった。04年には「めぐみさんの遺骨」として北朝鮮が提供した人骨がDNA鑑定で別人のものと判明した。08年には福田康夫首相退陣を理由に、北朝鮮は合意した拉致問題の再調査をほごにしている。

 今回の調査委員会に日本側は加わらない。北朝鮮のこれまでの対応を考慮すると、実効性のある調査が担保されるのか疑念が募る。

    ■    ■

 日朝合意の背景には、核・ミサイル開発を続け、国際社会から制裁圧力を受ける北朝鮮が、経済の立て直しと孤立の打開を図る思惑がある。

 合意文書には、北朝鮮が拉致被害者の再調査を開始する時点で、日本が独自に科している制裁措置の一部を解除することが盛り込まれている。

 解除対象となるのは、人的往来の規制や北朝鮮への送金報告の義務、人道目的の北朝鮮船籍船舶の入港禁止措置。拉致問題での譲歩と引き換えに日本の制裁緩和を引き出すことが狙いだ。

 北朝鮮は今後3週間前後で調査委員会を立ち上げ、調査状況を随時日本側に通報するとしている。調査期間について菅義偉官房長官は「1年を越えない」とするが、具体的な期限は区切られていない。北朝鮮が全ての情報を開示しているか、検証する仕組みが必要だ。制裁緩和は、それを見極めて実施するべきだ。

    ■    ■

 日本政府は30日、北朝鮮の調査内容を検証する要員を滞在させるため、平壌に拠点を置く方向で検討に入った。拉致問題に対する過去の北朝鮮の対応を考えれば、当然の措置である。

 被害者家族の高齢化は進み拉致問題の進展は急務である。1977年に拉致された横田めぐみさんの父滋さん(81)は再調査について「最後の機会だと思う。ぜひ成果を挙げてほしい」と語った。今度こそ、拉致問題を解決しなければならない。政府は一筋縄ではいかない相手だけに粘り強い外交交渉が求められる。