長時間労働によって心身がむしばまれ、過労死や過労自殺に至る悲劇をこれ以上繰り返してはならない。

 遺族らの思いを受け止め、超党派の国会議員連盟の「過労死等防止対策推進法案」が衆院本会議で可決された。参院に送られ、今国会で成立する公算が大きくなった。

 法案では過労死を「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義。防止対策は「国の責務」と明記したのが特徴だ。

 厚生労働省によると、2012年度に過労死と労災認定されたのは123人で3年連続増加、過労自殺(未遂を含む)は過去最多の93人だった。だが、遺族が立証するには限界があり、泣き寝入りがほとんどといわれる。数字は氷山の一角にすぎない。

 過労死の実態は十分把握されておらず、法案では国による調査研究は定義外のケースを含め幅広く取り扱う。遺族らが求めていたことでもある。「勤労感謝の日」を含む毎年11月を啓発月間とし、調査研究結果や対策の実施状況を毎年、国会へ提出する。

 法案は長時間労働などに対する規制や罰則を定めていない。国は具体的な防止策を盛り込んだ大綱の作成を義務づけられている。長時間労働を抑えるための具体策が提示できるかどうかがポイントだ。遺族や労使代表をメンバーとする「防止対策推進協議会」が意見を出すことになっており、遺族の願いに応える内容を取り入れ、実効性あるものにしてもらいたい。

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 衆院厚生労働委員会で採決があった日、「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表が意見陳述した。

 夫は1996年に自殺した。飲食店の店長だった。不況の中、会社の生き残りのため、年間4千時間に及ぶ過重労働を強いられた。会社の業績は回復したが、ノルマには達しなかった。連日パワハラを受け、意に沿わぬ異動を命じられた。うつ病を発症し、投身自殺を図った。

 寺西代表は遺族を代表して「真面目で責任感が強い優秀な人が長時間、過重労働で心身の健康を損ない、命を奪われている」と訴えた。

 中高年だけの問題ではない。若者を過酷な条件下で働かせ、使い捨てにする「ブラック企業」だ。県内でも沖縄労働局が昨年9月、27事業所を抜き打ち調査。過労死のリスクが極めて高い月80時間超の時間外労働は5事業所、100時間超も3事業所あった。

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 日本語の「karoshi」がそのまま英語化していることが象徴するように、日本の労働環境は国際社会から見て人間らしい働き方とかけ離れている。政府は昨年5月、国連社会権規約委員会から過労死や過労自殺への防止策を取るよう勧告を受けている。

 法案の理念と逆行する動きがある。労働時間規制の適用除外とし、残業代を支払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」である。安倍晋三首相が6月の成長戦略の目玉の一つにしようとしている。過労死、過労自殺を生まない長時間労働の是正こそが先でなければならない。