周到で巧妙な、しかし、危うい手法である。

 まずは公明党が乗りやすい「グレーゾーン事態」を先行して取り上げ、引き続き政府が示した15事例を一つ一つ議論していく。そのうちに集団的自衛権行使の必要性について自民、公明両党の間に共通認識が生まれ、合意が形成されるだろう、との狙いだ。

 集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党を議論の場に引き入れ、抱き込むための、深謀遠慮である。

 自民、公明両党の「安全保障法制整備に関する与党協議会」は、6日の第4回会合で、他国からの武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」の対応を強化していくことで合意した。

 グレーゾーン事態とは、外国から軍事攻撃を受けたわけではないが海上保安庁や警察では対応が困難な「平時と有事の中間事態」のこと。漁民を装った武装集団が尖閣などの離島に不法上陸した場合、などを想定している。

 与党協議では、事前の閣議決定で自衛隊出動の可否を首相に一任するという運用改善による対処を確認した。だが、この手法にも疑問がつきまとう。

 多数の武装漁民が上陸するという事態は、その国の政府の了解を前提にした行動だとみるべきで、日本の自衛隊出動を想定した挑発的計画である可能性が高い。

 首相の判断が相手国の本格的な軍事行動を招くおそれがあり、事を戦争へとエスカレートさせかねないのである。

武装集団を上陸させないような予防的な外交がないことのほうが深刻だ。

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 政府は3日の与党協議会で、憲法が禁じる「他国の武力行使との一体化」の定義を限定的に解釈する新たな4条件を示した。他国軍への後方支援を拡大するための措置だ。

 戦闘地域と非戦闘地域の区別をつけず、武器・弾薬の提供もできるようにする-つまりは、後方支援という名の戦争参加である。自衛隊を「普通の軍隊」(自民党幹部)にし、日本を戦争のできる「強い国」(安倍晋三首相)にするということは結局、そういうことなのだろう。

 だが、これは疑いもなく「他国の武力行使との一体化」であり、憲法9条が明確に禁じているものだ。

 憲法上の歯止めを次々に外していけば、憲法9条は現実には何の役にも立たない空っぽの文章となり、主権者である国民は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする」という憲法前文を実現する手だてを失ってしまうだろう。

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 公明党から強い異論が出たため政府は、6日の協議会で、他国軍への後方支援について、先に示した4条件を撤回し、戦闘現場での活動を禁止するなどの新たな条件を示した。だが、それでもまだ問題が多い。

 イラク戦争の際、自衛隊が米兵をバグダッド空港に輸送したことについて名古屋高裁は2008年4月、違憲判決を下し、同年5月に確定した。あの時点の後方支援活動さえ違憲だと判断されたのである。歯止めこそ必要だ。