大企業や投資家に顔を向けた安倍晋三首相の成長戦略が、一段と鮮明になった。

 政府は、企業のもうけにかかる法人税の実効税率を現在の約35%から数年間で20%台に引き下げることを、経済財政運営の指針「骨太方針」の素案に明記した。来年度から着手する方針だ。

 日本の法人税率を中国や韓国、ドイツ、英国並みの20%台に引き下げるというものだ。企業の国際競争を強化するとともに、海外からの投資を呼び込むことを狙いに、経済界などが引き下げを求めていた。

 安倍首相は、前のめりともいえる姿勢でこれに呼応した。官邸主導により政府や与党の税制調査会で議論が行われてきたが、首相が得意とする結論ありきの手法だ。素案に明記したものの、肝心の政策の裏付けとなる財源問題は棚上げされたままである。

 首相は13日、記者団を前に「日本の法人税は成長志向型に変わる。そのことによって雇用を確保し、国民生活の向上につなげていきたい」と胸を張った。

 首相の描くシナリオは、企業の税負担が減れば、設備投資や賃上げにつながり、その結果、景気が回復するというものだろう。だが、企業が減税によって浮いた資金を賃上げや雇用に回す保証はない。もうけを蓄える内部留保に回す可能性も否定できない。

 そもそもなぜ、利益を上げている企業が、さらに優遇されるのか。それによって国民の生活にどのような恩恵があるのか、政府は十分に説明する必要がある。

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 骨太方針の素案では、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を2015年度までに半減し、20年度までに黒字化する財政健全化の目標が踏襲された。

 法人税の実効税率1%当たりの税収は約4700億円である。現行の約35%から5%程度引き下げた場合、2兆円規模の税収が減る計算だ。

 減収分を穴埋めする財源の確保については、めどが立っていない。甘利明経済再生担当相らは、景気回復による税収増を充てるよう主張する。アベノミクスによる企業業績改善が念頭にあるようだが、経済の先行きは予測困難である。果たして法人税減税による成長と財政再建が両立するのか、甚だ疑問である。

 一方で自民党税制調査会では、赤字企業も対象となる外形標準課税を強化する案もある。体力の弱い中小企業も課税対象となると、企業の格差は一層広がる恐れがある。

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 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、4月の実質賃金指数(労働者1人当たりの給与総額に物価変動の影響を加味したもの)は、前年同月から3・1%下落し、09年12月の4・3%以来のマイナス幅となった。

 賃上げの伴わない消費税増税や社会保険料の負担増は、家計を疲弊させる一方だ。一部大企業のみが潤うだけでは、安定した成長は望みようもない。中小・零細企業を含め個人や家庭の暮らしが豊かになったと実感できなければアベノミクスは、いずれ行き詰まるだろう。