教育に政治の意向が持ち込まれる懸念が拭えない。教育委員会制度を見直し、自治体の長(首長)の権限を強化する改正地方教育行政法が今国会で成立した。来年4月1日に施行される。

 教育委員会制度は、教育が政治に左右された戦前の反省から、政治権力が直接関与できないようつくられた。首長の関与を強めた改正法は、約60年続いた制度の大転換となるものだ。

 改正法では、教育委員長と教育長の権限を兼ね備えた新「教育長」(任期3年)を置き、首長が直接任命・罷免する。首長が主宰する「総合教育会議」を新設、首長と教育委員会が協議し、教育行政の指針となる「大綱」を策定する。

 一時は格下げや廃止論があった教育委員会は、教育の政治的中立性を確保するとして現行通り教育行政の最終権限を持つ執行機関に位置づけられ、教科書採択や教員人事も教委の専権事項として残った。だが「大綱」の策定権限は首長にある。

 文部科学省は大綱に「教育委員会が同意していない事項が記載されることもあり得る」とする。その場合、教育委員会が従う義務はないが、会議での首長と教委の力関係は対等ではない。首長が「暴走」した場合歯止め策はない。

 会議で協議できる事項は幅広く、教科書採択や全国学力テストの結果公表、愛国心教育などにも首長が踏み込むことが可能だ。つまり運用次第で無制限に首長の要求が、教育行政に反映される恐れがあるのである。

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 教育委員会改革のきっかけとなったのは、2011年に大津市で起きた中2男子いじめ自殺事件だ。市教委のずさんな対応が発端となり、教委の形骸化や隠蔽(いんぺい)体質が批判を浴びた。

 「現行制度は、責任の所在があいまいだ」との安倍晋三首相の問題提起を受けて改革が本格化した。昨年4月の政府の教育再生実行会議の提言や同12月の中央教育審議会の答申を受け、与党協議を経て、国会で審議が進められてきた。

 確かに現行の教育委員会は、制度疲労を起こしているとの指摘も少なくない。しかし、制度をいじり、首長の権限を強めることが、いじめ自殺や体罰問題の根本的な解決につながる保証はない。

 長期的視点が必要な教育の現場に、任期4年の首長が選挙を意識した短期的な成果を求めることがあれば、現場の混乱を招きかねない。

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 国の地方教育行政への関与を拡大していることには危うさを感じる。いじめによる自殺の防止や児童生徒の生命・身体への被害の防止など「緊急の必要性がある場合」に文科相が教育委員会に対して直接是正指示を出せることを明確化した。過度な介入は地方分権の理念に逆行する。教育への国の関与はあくまで抑制的であるべきだ。

 教育行政に求められるのは何よりも子どもたちが、安心して学べる環境をつくることである。公教育の趣旨を逸脱するような政治や国家の介入はあってはならない。